アザラシに特有の致命的なウイルス、北極海の氷の減少で他の種にも拡大

自然
Image by Gretta Blankenship from Pixabay

北極海の氷は気候変動や温暖化の影響により急速に溶け始めています。

地球の気温の上昇は、人間だけでなく多くの動物たちにも致命的な影響を与えるおそれがあります。

科学誌Scientific Reportsに掲載された研究によると、北極海の氷の減少によってアザラシに特有のウイルスが移動したことで、北太平洋地域に生息している他の海洋哺乳類が被害を受けています。

科学者は、これまで病気とは無縁だった種が脅威にさらされ始めているのは、気候変動による間接的な影響が関係していると考えています。

 

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アザラシだけの病気が他の地域の他の種にも拡大した

 

PDV(Phocine Distemper Virus-アザラシジステンパーウイルス)と呼ばれる、アザラシに特有の非常に感染力の強いウイルスは、1988年に初めて確認され、その年と2002年の流行によってヨーロッパの多数のアザラシが命を落としました。

ウイルスは2004年に再び出現しましたが、その発生場所はこれまでのヨーロッパではなく北アラスカであり、さらに科学者を困惑させたのは、アザラシだけでなくその地域に生息しているラッコにも感染が及んでいたことでした。

PDVは人の麻疹(はしか)のように感染力が強く、接触することで容易に広がる呼吸器疾患です。(PDVは人には感染しません)

先の2回の感染時には、ヨーロッパのアザラシの50%近くが感染により死亡したとみられています。

しかしPDVはこれまでアザラシでしか感染の報告がない病気でした。

そのウイルスがラッコなどの海洋哺乳類で確認されたことは、科学者に大きな衝撃を与えました。

 

カリフォルニア大学デービス校のトレーシー・ゴールドスタイン氏は、この病気が他の地域と他の種に伝染したことに驚き、やがてその原因には氷の融解が関わっていると考えるようになります。

PDVは非常に強い感染力を持ちますが、アザラシのいる地域に住む北大西洋西部のホッキョクグマやセイウチはPDVに対する抗体を持っています。

科学者たちはこれを、動物たちが時間をかけて環境の変化に適応してきた結果だと考えていました。

つまりもしウイルスの拡大が氷の減少と関係があったとしても、そのスピードが緩やかならば、動物たちは未知のウイルスに対し備えることができたかもしれないということです。

ゴールドスタイン氏はその仮説を確かめるために、15年以上にわたってアラスカからロシアの海洋周辺に生息する2,500頭以上の海洋哺乳類――アザラシやトド、ラッコなど――から血液サンプルと鼻腔内の成分を採取しました。

その結果、2003年と2009年に感染が拡大していた証拠が得られ、加えてその少し前の時期の海氷面積が記録的に小さくなっていたことがわかりました。

これは氷の大幅な減少とウイルスの拡大とに何らかの関係性があることを示す証拠です。

 

Image by Aline Dassel fromPixabay

 

氷はアザラシなどの海洋哺乳類にとって不可欠であり、繁殖や休息、そして出産に使われる場所でもあります。

その氷が解ける――すなわち海水温が上昇することは、アザラシだけでなく、彼らが餌とする動物の生活圏をも変えてしまいます。

アザラシが氷と餌を追って生活圏を移動させたことは、結果的に、PDVを他の地域と他の種に運ぶことになりました。

ゴールドスタイン氏は、「動物は急速に変化する環境の速度に追いつくことができない」と述べ、気候変動による予想以上の氷の減少が、別の種がウイルスに感染した主な原因だという見方を示しています。

 

氷の減少は人間の生活にも影響を及ぼす

 

アザラシが広めた病原体はラッコなどの別の種の命を脅かすのと同時に、人間の生活にも影響を与えています。

ゴールドスタイン氏の調査では、氷が融解しアザラシが他の地域に移動したことで、アラスカなどの地域では、狩猟で生計を立てている民族の生活維持が困難になっています。

また同氏は、「北極圏のような地域はその場所の特性から十分なウイルス調査が出来ていない」と述べ、ウイルスが他の種にも被害を与えているかもしれない可能性に懸念を示しています。

 

北極圏の氷の減少は定期的に発生しており、そのメカニズムが全て気候変動や温暖化によるものなのかは意見が分かれています。

NASAの最新の調査では、2019年の北極圏の氷の面積は過去2番目に小さい水準でした。

ゴールドスタイン氏は、「ウイルスを排除することは不可能かもしれないが、人間はその広がりを遅らせることができる」と話し、二酸化炭素の排出量を削減することなどで気候変動の影響を抑えることは、動物に環境変化に適応する時間を与えるとしています。

 


 

ゴールドスタイン氏は「動物の健康と人間の健康、そして環境の健康は密接に結びついている」と述べています。

気候変動や温暖化の影響は、人間だけでなく動物にも大きな影響を与えます。

アザラシのウイルスが他の地域や他の種に広がった事例は、現代の気候変動が想像以上のスピードで進行していることを示唆しています。

 


 

 

しぐれ
しぐれ

気候変動は仕方ないものだとしても、そのスピードを遅らせることができれば希望はあるのかもしれないね

かなで
かなで

できることを少しずつでもやっていけばきっと大丈夫だよ!

 

 

References:CNN

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