北極圏の気温は温暖化の影響により上昇しています。
現在永久凍土や氷床の多くが解け始めており、氷を住処とする動物たちの生存が危うくなっています。
北極圏の氷の融解はウイルスの移動も引き起こします。
近年、アザラシにだけ感染する病気が他の動物の命を奪っているケースが確認されています。
氷の減少は動物の生活圏を変えウイルスを運ぶ
「PDV (Phocine Distemper Virus-アザラシジステンパーウイルス)」と呼ばれる、アザラシに特有のウイルスは、1988年に初めて確認され、その年と2002年の流行によってヨーロッパに生息する多くのアザラシが命を落としました。
その後ウイルスは2004年に再び出現しました。
しかしその発生場所は、これまでのヨーロッパではなく、さらに寒い地域である北アラスカでした。
ウイルスの北への移動は科学者に衝撃を与えましたが、事態はさらに深刻でした。
PDVはアザラシだけでなく、この地域に生息しているラッコなどの海洋哺乳類にも感染していました。
PDVは感染力が強く、接触によって容易に広がる呼吸器疾患です。(人には感染しません)
1988年と2004年の発生時にはヨーロッパのアザラシの半数近くが死亡しましたが、これまでPDVはアザラシ以外の種では確認されていませんでした。
アザラシと生息域が重なるホッキョクグマやセイウチなどは、PDVに対する抗体を持っており病気にはかかりません。
これらの動物は、長い時間アザラシと共に生活してきたため、ウイルスに対する抵抗力を獲得できました。
しかし生息域の異なるラッコなどの種は抗体を持っておらずウイルスに感染します。
氷の融解とそれに伴うアザラシの移動は、同時にウイルスも運ぶことで、免疫のない動物を死に至らしめています。
動物は急激な環境の変化に適応できない
(dassel/Pixabay)
米国カリフォルニア大学デービス校のトレーシー・ゴールドスタイン氏は、アラスカからロシアの海に生息している2500頭以上の海洋哺乳類を15年以上にわたって調査し、氷の融解がウイルスを拡散させていることを突き止めています。
調査は毎年行われ、アザラシやラッコ、トドなどから血液や体液を採取した後、その成分を分析しました。
その結果、ウイルスに感染する動物の数は、前年の氷の面積と反比例することがわかりました。
大幅に氷が減少した場合、より多くの動物がウイルスに感染しました。
氷はアザラシにとって、繁殖や休息をするための大事な生活場所です。
氷が解けてしまうとアザラシは北に移動せざるを得ません。
これは、ウイルスが新たな地に広がることを意味します。
ゴールドスタイン氏は、「動物は急速に変化する環境に追いつくことができない」と述べ、PDVのラッコへの感染は、「気候変動による氷の減少が主な原因である」と結論づけています。
氷の減少は、アザラシを狩って生活している人たちにも影響を与えています。
ゴールドスタイン氏は、「アラスカなどの地域では、狩猟で生計を立てている民族の生活維持が困難になっている」と説明しています。
またウイルスについては、「北極圏のような地域はその場所の特性から十分な調査ができず、他の種への影響が懸念される」と述べています。
北極圏の氷の減少は定期的に発生しており、そのメカニズムが全て気候変動や温暖化によるものなのかは意見が分かれています。
NASAの最新の調査によると、2019年の北極圏の氷は過去2番目に小さい面積でした。
ゴールドスタイン氏は、「ウイルスの排除は不可能かもしれないが、人間はその広がりを遅らせることができる」と述べ、「二酸化炭素の排出量を削減し気候変動の影響を抑えることができれば、動物に環境変化に適応する時間を与えられる」と強調しています。
研究結果はScientific Reportsに掲載されました。
アザラシと一緒にウイルスも移動しちゃうんだね
少しずつでもいいから温暖化のスピードを遅らせていこう!
Reference: CNN