イギリスの王立植物園キューガーデンの植物学者は、アフリカのシエラレオネで、失われたコーヒー種を再発見したと発表しています。
コーヒーは、「ステノフィラ (Coffea stenophylla)」と呼ばれる種で、シエラレオネの南東部にある熱帯林で自生していました。
ステノフィラは、かつて西アフリカで栽培されていましたが、現在主流のアラビカ種とロブスタ種に取って代わられ、野生では長らく確認されていません。
高温に強いステノフィラは、温暖化が予想される未来において、コーヒーの主流の品種となる可能性があります。
気候変動に強いコーヒー「ステノフィラ」
キューガーデンやグリニッジ大学などの研究グループは、2018年の12月、アフリカのシエラレオネでの調査で、野生のステノフィラを発見しました。
ステノフィラはコーヒーの品種として、約100年前までは大々的に栽培されていましたが、シエラレオネでは1954年、コートジボワールでは1980年代以降野生では確認されておらず、絶滅したと考えられていました。
植物学者が野生のコーヒー種を探すのには理由があります。
それは現在主流のアラビカ種が、温度上昇に極めて弱いためです。
世界のコーヒー生産量のうち56%がアラビカ種、43%がロブスタ種であり、このうち味が優れているアラビカ種は、年間平均気温が18℃~21℃の高地で栽培されます。
アラビカ種は気温が23℃を超えると味が落ち、今後気候変動によって温暖化が進んだ場合、今世紀半ばまでには、生産量が半分になると予測されています。
一方のロブスタ種は、比較的高温には強いものの味はアラビカ種に劣り、高級品市場で扱われることはなくなっています。
気候変動に伴う気温の上昇や異常気象は、農地の面積を減少させ、コーヒーの価格上昇をまねくおそれがあります。
ステノフィラの実 (Royal Botanic Gardens,Kew)
発見されたステノフィラは、焙煎された後、18人のコーヒー専門家によって試飲されました。
専門家はコーヒー種に関する情報を伏せられたままテイスティングを行い、風味を評価しました。
結果、80%以上の専門家が、ステノフィラをアラビカ種と同程度の味と評価しました。
ステノフィラは、自然な甘みと中程度の酸味を持ち、口の中での感触が良好でした。
また研究者はステノフィラの高温への耐性も調査し、この種がアラビカ種よりも、平均して6℃以上高い環境で育つことも確認しました。
これは、気温上昇によってアラビカ種の生産量が落ち込んだ場合、ステノフィラが主流になる可能性を示唆するものです。
Nature Plantsに掲載された研究の著者の一人で、キューガーデンの植物学者であるアーロン・デイビス氏は、「ステノフィラは、アラビカ種よりもはるかに温暖な条件で成長し収穫することができます。優れた風味と高温への耐性を持つことから、将来的には、気候変動に強い新世代のコーヒー作物として重要な資源になるでしょう」と述べています。
研究者は今後、ステノフィラの病気や乾燥に対する耐性も調べる予定です。
今回ステノフィラが見つかった場所は鬱蒼とした熱帯林でしたが、シエラレオネや、かつて栽培が行われていたコートジボワール、ギニアといった国では、現在進行形で大規模な森林破壊が進んでいます。
コーヒー種は全世界で120種以上あり、野生のものの大部分は、人里離れた森の中や熱帯地域にあります。
キューガーデンが以前に行った研究によると、これらのうちの75種が絶滅の危機に瀕しています。
アラビカ種が入手困難になったとき、ステノフィラを飲めるどうかは、今後の森林保護活動にかかっています。
デイビス氏はステノフィラの市場投入時期について、「ここ数年でコーヒーショップに並ぶことはありませんが、5年から7年の間には、高い価値を持つコーヒーとして市場に入ってくるでしょう」と述べています。
ステノフィラの実はアラビカ種やロブスタ種と違って真っ黒なんだね
どんな味がするんだろう……飲んでみたい……