マラリアを撲滅するために蚊の遺伝子を改変する実験がはじまる

遺伝子についての理解が深まることで人間は多くの恩恵を得てきました。

今では特定の病気にかからない農産物をつくることは当たり前のことです。

しかし遺伝子を人為的に変化させることについては賛否両論があるのも事実です。

つい最近では中国の科学者が人間の赤ん坊に遺伝子改変を施したとして大きな避難を浴びました。

 

科学の発展にモラルとの闘いはつきものですがそこにある恩恵が多くの人にとって有益ならばどうでしょうか。

単に批判するよりもそれが明らかに有益ならば前に進んだ方がいい場合もあるかもしれません。

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マラリアによる犠牲者をなくすための画期的な試み

 

 

NPR(National Public Radio-ナショナル・パブリック・ラジオ-アメリカの公共ラジオネットワーク)が伝えたところによると、現在科学者たちは蚊を媒介とする病気マラリアに対抗するために遺伝子操作をした蚊を生み出そうとしています。

マラリアは毎年世界で2億人もの人が感染し40万人以上が死亡しています。

死者の多くは抵抗力のない乳幼児です。

 

ビル&メリンダ・ゲイツ財団が中心となった「ターゲットマラリア」プロジェクトは、アフリカ地域でのマラリアを撲滅するためにメスの蚊を遺伝子改変しその数を減らすことを目的としています。

遺伝子ドライブとよばれる遺伝子の偏りを人為的に起こすことで特定のウイルスを次世代に持ち越さないようにするこの科学的な実験は、イタリアのテルニにある研究所で厳重な管理体制のもと行われています。

 

遺伝子組み換え作物ならぬ遺伝子組み換え生物を作ろうというこの試みにはモラル的な葛藤が存在しています。

NPRによるとWHO(世界保健機関)はこの実験が自然の原則と矛盾するかどうかについて現在検討中であるということです。

 


 

実験は分子はさみを使って蚊のゲノム編集をすることから始まります。

“doublesex”と呼ばれるメスの蚊の持つ遺伝子を改変することで噛みつく力を取り除き不妊にします。

メスの蚊は男性的な性質を持った一種の雌雄同体になり、仮にそこから新しい蚊が生まれたとしても親の遺伝的性質は引き継がれたままです。

研究チームの調査では遺伝子改良されたハマダラカが生む子孫の95%がオスになるとのことです。

 

人間を刺すのはメスの蚊だけなので改良された蚊が浸透すると次第にオスばかりが増えることになります。

そして最終的にはこの遺伝子改変された蚊を自然に放つことで野生のハマダラカを撲滅する計画です。

(ハマダラカには多くの種類がありマラリアを媒介するのはそのうちの一部です)

 

遺伝子改変がもたらす危険性

 

 

研究結果はマラリアの撲滅のための効果的な方法を提供する素晴らしいアイデアのように思えますが、ここには多くの批判的な意見や忠告が存在しています。

 

ナイジェリアのHealth of Mother Earth FoundationのディレクターであるNnimmo Bassey氏は、彼らの実験が危険なものであると警告します。

 

私たちはこれを正しいところで止めなければなりません。彼らは危険な技術をテストする場所としてアフリカを採用しようとしているのです。

 

別の専門家は遺伝的に改変された生物を自然の生態系に放つことは、それらに依存する他の動植物にも影響を与える可能性があると考えています。

例えば花粉を媒介している昆虫に対して遺伝子改変を施しその数をコントロールするならばその植物にも悪影響が及ぶのは避けられないことです。

 

こうした懸念や批判に対しターゲットマラリアプロジェクトは、まだこの研究が初期段階であり関係機関や専門家の意見を取り入れながら慎重に進めていくとしています。

 


 

研究チームの一人であるインペリアル・カレッジ・ロンドンのTony Nolan氏は、このプロジェクトが蚊や起こりうる環境への影響を評価するために今後何年もの追加の研究をする計画があると話しました。

そして研究がもたらす可能性が医学にとって有意義であるならばその技術を捨て去るべきではないとも付け加えています。

 


 

実験が行われているイタリアのテルニはその気候のために仮に実験室から遺伝子改変された蚊が逃げたしたとしても生きていけない環境にあります。

そして実際にはセキュリティコードを通さなければ入ることのできない密閉された空間で実験は行われています。

 

ターゲットマラリアのホームページによると世界には3500種類もの蚊が存在していてそのうち837の種がアフリカに生息しています。

マラリアを媒介する蚊はその中の3種のみであり、プロジェクトはこの3種に絞った研究をしているということです。

 

 

 


 

マラリアは現在でも多くの人の命を奪う危険な病気です。

一方で生物の遺伝子を改変することに対するモラルの問題が存在します。

遺伝子改変された蚊を放つことで本当にマラリアを撲滅できるかは蓋を開けてみなければわかりません。

 

この先科学が発展し続けることでこれまでタブーとされてきた方法も表に出てくることでしょう。

ターゲットマラリアプロジェクトは、人を救うために遺伝子のタブーに触れることが正しいことなのか、というなんともむず痒い問題を私たちに提起しています。

 

 

 

References:NPR,TargetMalaria