最も有名な恐竜の一つであるティラノサウルス(T.REX)は、その大きさで知られています。
体長12mにも及ぶこの巨大な恐竜は世界中で人気があり、化石が展示されている博物館には多くの人が訪れます。
しかし巨大なティラノサウルスも、生まれたときからこの大きさだったわけではありません。
どんな生物にも幼少期があり、体が大きくなるには時間が必要です。
ティラノサウルスに似た新種の恐竜ナノティラヌスが巻き起こした議論
ナノティラヌスの想像図 (Nobu Tamura/Wikimedia/CC BY-SA 4.0)
1988年、クリーブランド自然史博物館の古生物学者ロバート・バッカー氏と彼の同僚は、1942年に最初に発見されたある恐竜の標本を再分類しました。
この標本は発見当初、ティラノサウルスに似た二足歩行をする恐竜「ゴルゴサウルス」の仲間だと考えられてきました。
バッカー氏たちは骨を調べ、そこにゴルゴサウルスにはない特徴を見つけます。
そしてこの恐竜を新しい種であるとして、「ナノティラヌス(Nanotyrannus)」と名付けました。
ナノティラヌスは名前が示すように、ティラノサウルスをそのまま小さくしたような恐竜で、大人になっても5mほどの大きさしかないとされました。
しかし恐竜界に新しく加わることになったナノティラヌスは、その後大きな議論を巻き起こすことになります。
一部の古生物学者は、ナノティラヌスはティラノサウルスの幼体、つまりまだ成長しきっていない子供のティラノサウルスであると主張していました。
2001年にモンタナ州で発見されたほぼ完全なナノティラヌスの化石によって、議論はさらに熱を帯びるようになります。
イリノイ州のバーピー自然史博物館は、このとき発掘された標本ともう一つの別のナノティラヌスの標本を収集し、それぞれ「ジェーン(Jane)」と「ピーティ(Petey)」という名前を付けました。
2体の標本は、ばん馬(荷物を曳くために使用された大型の馬)の大きさとほぼ同じでしたが、それはナノティラヌスの実在を証明する決定的な証拠とはならず、議論はその後も続いていきました。
ティラノサウルスの生活史について研究を続けてきた、オクラホマ州立大学のホリー・ウッドワード博士が率いるチームは、最近行った研究結果から、ナノティラヌスとティラノサウルスについての新しい見解を発表しています。
それによると、ナノティラヌスという恐竜は、そもそも存在していなかった可能性があります。
ナノティラヌスはティラノサウルスの幼体
「ジェーン」の頭部のレプリカ (Rattis irrittis/Wikimedia/Public Domain)
科学誌Science Advancesに掲載された研究は、ナノティラヌスという恐竜が存在せず、それらはティラノサウルスの幼体であったと報告しています。
ウッドワード博士たちのチームは、ナノティラヌスの代表的な標本である「ジェーン」と「ピーティ」の骨からごく薄い組織を切り取り、それを顕微鏡で分析しました。
古組織学として知られる、生物の細胞や組織を顕微鏡を使って分析する手法により、この2体の恐竜たちが、大人ではなく子供の体の特徴を持っていることが明らかになりました。
研究者たちは血管部分の太さから、この2体の恐竜が死亡時にまだ成長段階にあったと報告しています。
研究を主導したウッドワード博士は「恐竜の骨が本当に素晴らしいのは、顕微鏡レベルでも化石化していることです」と述べ、顕微鏡による微細な構造の分析から、恐竜の代謝や成長速度そして年齢の手がかりを得ることがてきると語りました。
また骨の成長輪(せいちょうりん-木の年輪と同じもの)の調査から、ジェーンの年齢が13歳、ピーティの年齢が15歳であったこともわかりました。
ティラノサウルスが成人サイズに成長するには20年かかるとされているため、ジェーンやピーティは大人になる前に死亡したことになります。
ジェーンに関してはその体重がおよそ1トンであったと推定されています。
これは大人のティラノサウルスが10トンの体重であることを考えるとかなり軽い体重です。
ウッドワード博士は、「誰もがT.REXを愛しているが、それがどのようにして育ったのかについてはよくわかっていない」と話し、ジェーンの体重と大人のティラノサウルスの体重との間に大きな差があるのは、個体によって成長速度が異なるからであるという見解を示しました。
博士は、ジェーンとピーティの骨の成長輪が一定の間隔ではなかったことを挙げ、恐竜がその年にどれだけ食料を得ることができたのかといった要素が成長に関わっていると指摘しています。
研究チームは、ナノティラヌスとされた2体の恐竜は新しい種ではなく、成長段階にあったティラノサウルスの幼体であると結論づけています。
恐竜の化石を集める人たちは、それが大きいほど価値があると考えています。
そのため小さい化石は無視されたり場合によっては破壊されたりしてきました。
ウッドワード博士は、一部のコレクターが大きさを追求してきたことで年齢の若いT.REXの標本は世界に5~7体しか残っておらず、それらは研究者が入手することのできない個人コレクションに入っていると話しています。
また小さい化石が若い動物のものである可能性について触れ、それらが無視されてきたことが、T.REXをはじめとした恐竜の成長に対する理解を困難にしてきた要因であると指摘しました。

小さい化石は博物館で人を呼ぶことができないから無視されている現状があるみたい

これまでに多くの貴重な化石が人知れず失われてきたに違いない……

小さい化石を調べて恐竜のことがもっとわかるようになるといいねー
References: EurekAlert,AFP