バナナが食べられなくなる日――一大生産地で発見されたバナナキラー菌「TR4」

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安価で栄養豊富、そして誰もが口にしたことのあるなじみの食品バナナが今存続の危機に瀕しています。

8月8日、コロンビア農業研究所は、自国のバナナ農園でカビの仲間であるフザリウム・オキシスポラム(Fusarium oxysporum)、別名トロピカル・レース4(TR4)が発見されたと報告しました。

TR4はバナナに対して致命的な影響を与えるカビの一種であり、これまで多くの地域のバナナ農園を壊滅的な被害に追いやってきました。

コロンビア政府はバナナ農園を検疫するために国家緊急事態宣言を発しています。

バナナの一大産地であるラテンアメリカでTR4が検出されたのは今回が初めてのことです。

 

TR4の被害を止めることが出来なければ、現在私たちが目にしているバナナはもう二度と食卓に並ぶことはないかもしれません。

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食卓からバナナが消える日――バナナを絶滅させる真菌「TR4」

 

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現在流通しているバナナのほとんどは「キャベンディッシュ」と呼ばれる種ですが、1950年代頃までは別の種である「グロス・ミッチェル」が主流でした。

しかしグロス・ミッチェルは、「つる割病(つるわれびょう)」と呼ばれるフザリウム菌による感染でほぼ完全に絶滅してしまいました。

この時“たまたま”菌に対し耐性を持っていたのが、現在主流のバナナであるキャベンディッシュです。

キャベンディッシュはその後世界の農園で栽培されるようになり、現在では輸出されているバナナの99%を占め、そのほとんどがラテンアメリカで生産されています。

今回コロンビア政府が非常事態宣言を出すほど警戒している理由は、キャベンディッシュが、というよりもバナナの種自体が感染に対し非常に脆弱であるからです。

 

バナナは無性生殖で子孫を残します。

これは本質的に全てのバナナはその親のクローンであり、遺伝的多様性に欠けていることを表しています。

一度致命的な病にかかった場合その子孫も同じような被害を受けることになり、それはすなわち種の全滅につながります。

 

この問題に詳しいイギリスエクセター大学のサラ・ガー氏は、感染の広がりは種の絶滅につながりかねないと警告します。

 

私たちが抱えているのは、キャベンディッシュを失うというほぼ終末論的なシナリオです。

 

TR4の危険性は広く知られています。

1989年に台湾で最初に発見されて以降、このバナナに対する致命的なカビは、東南アジア全域から、レバノン、イスラエル、インド、オーストラリアといった広範囲にわたる地域で被害をもたらしてきました。

TR4はこれまで幸運にもラテンアメリカでは発見されていませんてしたが、今回それが明らかになったことで、その急速な菌の広がりが懸念されています。

 


 

エクセター大学の生物学者ダン・ベバー氏は、一度その土地に入り込んでしまったTR4を完全に取り除くのは難しいと語ります。

TR4は土壌に生息しており、汚れたタイヤやブーツ、また他の農園から移殖された植物などから拡散していきます。

土壌に“潜伏”したTR4はバナナの根を通して感染し、バナナの栄養を枯渇させるまで何年にもわたって活動することができます。

ベバー氏は、過去の例から完全にTR4を排除することが難しい実態を挙げ、ラテンアメリカでのTR4による感染は、現在確認されているよりも広範囲に広がっている可能性があると指摘しました。

 

バナナの一大供給地帯に広がるTR4の被害を防ぐ方法はあるのでしょうか。

 

バナナの明るい未来のために

 

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かつてグロス・ミッチェル種が衰退したときにキャベンディッシュが出てきたように、別の種を栽培することができればバナナは存続することができます。

しかしバナナは非常に利益率の低い食物であるため、新しい種の開発や病気の耐性を高めるための研究費用が少ないという問題があります。

また世界的なバナナに対する需要は、数千キロも離れた場所への輸送と大量生産のために、生産者を単一のバナナに集中させる結果を招きました。

遺伝的多様性に乏しいキャベンディッシュがTR4に感染した場合、種そのものが絶滅してしまうおそれがあります。

 

こうした想定される被害に対し、遺伝学は一つの解決策を提示しています。

それは「CRISPR(クリスパー)」と呼ばれる遺伝子編集技術を用いて菌に強いバナナを作ろうというものです。

2018年に植物生理学者であるジェームズ・ディール氏は、CRISPRを使いキャベンディッシュの遺伝子変更に成功しています。

またイングランド東部の都市ノリッチのある会社は、CRISPRで遺伝子改変した耐性バナナの実験をしています。

 

TR4に十分な耐性を持ち、なおかつ味も従来と変わらないキャベンディッシュを作ることができればバナナの未来にも光が見えてきます。

しかし遺伝子組み換え作物に対しては、それが与える人間への影響について未知数な部分があり、例えば欧州司法裁判所はCRISPRを使った作物の販売を制限するという判決を出しています。

遺伝子組み換え作物に対しての理解や研究が進み大規模な生産を始める頃には、キャベンディッシュはもうこの世に存在していないかもしれません。

 


 

ベバー氏はキャベンディッシュの代替作物を探す代わりに、“1つの作物を大規模に生産することは持続不可能であると認めること”こそ唯一の解決策だと述べています。

 

私たちがすべきことは、生産システム全体について再考することです。

 

ベバー氏は、遺伝的多様性に乏しいバナナを大量に生産し輸送するという現在のシステムでは必ず問題が発生してしまう、と警告しています。

 


 

コロンビア政府によると発見されたTR4はコロンビア北部の地域175ヘクタールに及んでいて、既にその地域は隔離されたということです。

 

バナナが食べられなくなる日なんて想像したくはありません。

ラテンアメリカという一大産地での被害が食い止められ、おいしいバナナがこれからも世界に供給されるようになることを祈ります。

 

 

 

References:LiveScience,WIRED

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