イギリスの「ロンドン動物学会」と、回遊魚を川に戻す活動を行っている「世界回遊魚財団 (World Fish Migration Foundation)」は、世界中の川からサケやマスなどの魚が姿を消していると報告しています。
淡水と海を行き来する回遊魚(通し回遊魚)は、クマや猛禽類といった野生動物の餌となるだけでなく、人間の食料や釣りなどのレクリエーションの対象としても重要な役割を担っています。
魚が姿を消した主な原因は、水質汚染、乱獲、気候変動、そしてダムの存在です。
危機的状況にある世界の通し回遊魚
回遊魚の状態に関する初の包括的なレポートは、世界の川に生息する魚が壊滅的なまでに減少していることを浮き彫りにしています。
調査期間は1970年から2016年までで、揚子江やアマゾン川など一部の河川については十分なデータが得られませんでした。
またアフリカにはコンゴ川などの、世界でも有数の生物多様性をもつ川がありますが、期間中に信頼できるデータを収集することができませんでした。
通し回遊魚の減少が最もみられたのはヨーロッパで、その割合は47年間でマイナス93%でした。
種類別ではチョウザメ(キャビアの原料)とウナギ(ヨーロッパウナギ)が顕著で、両種とも90%以上個体数が減少しました。
次点はラテンアメリカおよびカリブ海でマイナス84%、以降は、アジア・オセアニアのマイナス59%、北米地域のマイナス28%と続きます。
世界全体での減少はマイナス76%でした。
魚の衰退には人間の活動が深く関わっており、なかでもダムの存在は回遊魚に致命的な影響を与えています。
研究者の一人である米国ネバダ大学のゼブ・ホーガン氏は、「ダムがあると魚は戻ることができず、ダムが取り除かれるとほぼ例外なく個体数は復活する」と説明しています。
(Cragin Reservoir Lake River/12019/Pixabay)
地域別では北米での減少数が他と比べて低くなっています。
研究ではこの理由について、ダムの撤去や漁業管理の徹底によるものであるとしています。
実際、ダムの撤去や水生生物のための河川の改修は、個体数の回復に大きな効果があります。
2016年にアメリカメイン州のペノブスコット川で行われた改修工事は、それまで年間で数百匹しか確認されなかったエールワイフ(ニシン科の魚)を、200万匹近くにまで復活させました。
一方ヨーロッパには10万基以上の老朽化したダムがあり、改修や撤去もほとんど進められていません。
ヨーロッパに存在する古いダムを撤去する活動を行っている「Dam Removal Europe」は、「ダムは川の自然な機能を破壊し、魚や他の野生生物の大規模な衰退を引き起こす可能性がある」と指摘し、「川を自由にするためには、これらの障壁を取り除く必要がある」と強調しています。
海の栄養素を内地に運ぶ通し回遊魚は、川を中心に形成される生態系にとって重要な存在です。
個体数の減少は、これらの回遊魚に依存している他の動物に多大な影響を与えます。
研究では247種1,406の個体群について調査され、このうち1,100については、状況が変化しない限り、生き残るための移動を余儀なくされると結論づけています。
もちろん全ての魚は生活の場所を変えられないため、生態系を維持していくには、それぞれの国や地域での迅速な行動が不可欠です。
ネバダ大学のホーガン氏は、「一部のダムは環境に有害であり、配置や設計および運用をする際には、生態系への影響を考慮に入れる必要がある」と述べ、「私たちはこれらの魚が失われる理由も、それらを保存し復元する方法についても知っており、全ては国民の意識と意思の問題である」と付け加えています。
ダムの建設はごっそり地形を変えちゃうから生き物への影響も大きいね
ダムの運用と生態系の維持、うまく両立する方法はないものか……
References: The Guardian