クジラが浅瀬や砂浜に打ち上げられる座礁は古くから記録されてきました。
座礁は様々な原因で発生しますがその全てが解明されているわけではなく、なかには説明できないものもあります。
クジラの種のなかで最も深い場所を泳ぐアカボウクジラの座礁もその一つです。
アカボウクジラの座礁が報告されるようになったのは1960年頃からで、それ以前にはほとんど記録がありません。
クジラの座礁を研究するために集まった世界各国の科学者チームは、過去の事例の分析から、アカボウクジラの座礁は人為的な影響によるものだと結論づけています。
クジラは海軍の使用するソナーに狂わされ、座礁しています。
座礁したクジラにみられる減圧症の跡
座礁したマッコウクジラ (FWC Fish and Wildlife Research Institute/Flickr)
Proceedings of the Royal Society Bに掲載された研究では、世界各国から参加した生物学者がアカボウクジラの座礁の謎に迫っています。
研究チームは、1960年から2004年までに起きた座礁121件について分析を行いました。
死亡したクジラの解剖では、体内で「減圧症」によるものと思われる血管の異常が確認されました。
人間にもみられる減圧症は、水深の深い地点から急激に浮上した場合に、血液に溶け込んでいた窒素などが気化する現象です。
この状態になると血管に泡ができ血流が阻害されるため、めまい、吐き気、けいれん、さらには知覚障害や運動障害を引き起こし、最悪の場合死に至ります。
アカボウクジラはかなり深くまで潜水するクジラです。
しかし通常、クジラを含む海洋生物は、自分の命を危険に晒すスピードで上昇することはありません。
死体の解剖結果は、アカボウクジラが何らかの外的要因によって、強制的に浮上させられた可能性を示唆しています。
海軍のソナーがクジラをパニックに陥れる
(skeeze/Pixabay)
研究者は座礁のあった時期と場所を記録し、それを周囲の国が実施した海軍の軍事訓練の記録と照らし合わせました。
その結果、クジラの座礁の一部は、海軍の訓練時期にあわせて起きていることが明らかになりました。
軍事訓練と座礁との関係性は1980年代後半から見られ、近年では1996年のギリシャ、2000年のバハマ、2002年のスペインのカナリア諸島などで確認されました。
また2002年から2014年までの間にギリシャ、カナリア諸島、スペイン南東部のアルメリアで起こった6回の座礁では、死体から明らかな減圧症の痕跡が見つかっています。
死亡したクジラは、病気や栄養失調などではなく至って健康な状態である一方、静脈全体に気泡が残っており、また複数の臓器に血栓や出血の跡がみられました。
研究者は座礁が起こるメカニズムについて、クジラの「戦うか逃げるか反応 (fight or flight response)」によるものだと指摘しています。
戦うか逃げるか反応は恐怖や危険に接した際に動物がみせる行動で、一時的に大きな力を出せる一方、正常な判断力が失われます。
一連の証拠は、ソナーに反応したアカボウクジラがパニックを起こし、減圧を待たずに急浮上したことを示しています。
研究者は、軍事訓練と座礁、そして死体の分析から、アカボウクジラの座礁は海軍のソナーが原因であると結論づけています。
スペイン政府はクジラの座礁を防ぐため、2004年から、カナリア諸島海域でのソナーの使用を禁止しています。
決定以降、この海域では目立った座礁は起こっていません。
海軍基地の周辺に生息しているクジラはソナーの影響をあまり受けなかったみたいだよ
音波が深海にまで届くようになったからソナーを知らない動物がパニックになってるんだね
Reference: LiveScience
(2019年2月の記事に加筆、修正を加えました)