シュガーアント(Sugar ant)と呼ばれているアリの種は、名前が示すように砂糖などの甘い食べ物を好み、住宅地のある土壌だけでなく、蜜や甘い分泌物を出す植物の近くでも活発に活動し、日々甘い成分を収集しています。
オーストラリア南部の乾燥した地域に生息している「Camponotus terebrans」と呼ばれるシュガーアントの一種は、他の砂糖好きなアリとは少し違う好みの傾向があります。
南オーストラリア州のカンガルー島で行われた調査は、このシュガーアントが砂糖ではなく、人間や動物の“おしっこ”を好むことを明らかにしています。
カンガルー島のシュガーアントは砂糖よりも“おしっこ”が好き
南オーストラリア大学の野生生物の生態学者ソフィー・プティ氏は、2016年のカンガルー島の調査で不思議な体験をします。
ある夜のキャンプ中、屋外で排尿したところ、その場所にシュガーアント(Camponotus terebrans)が群がってきたのです。
さらに彼女を驚かせたのは、アリたちが翌日の朝になっても排尿された場所をうろつきまわっていたことです。
なぜアリたちがこんなにも“おしっこ”に対して執着を見せたのか――プティ氏はその謎を解くために3年以上にわたって調査を続けました。
同僚と再びカンガルー島を訪れたプティ氏は、ある実験を行います。
それは尿素の含有率を変えたいくつかの液体と砂糖を含ませた液体とを地面に撒き、シュガーアントたちがそれにどう反応するかを観察するというものです。
この島は名前が示すように、カンガルーやワラビーが生息しています。
アリが人間の尿に関心を示すならば、彼らは日常的にカンガルーの尿にも同様に反応している可能性があります。
そこでプティ氏は人間やカンガルーの尿に含まれている尿素濃度2.5%を基準に、3.5%、7.0%、10.0%のものと、ショ糖(砂糖の成分)の濃度が20%と40%の液体を作り、アリたちの生息している砂地の付近にそれを撒きました。
1カ月間の観察は、アリたちが砂糖ではなく、尿素濃度が高い液体を好むことを明らかにしました。
アリが最も群がったのは尿素濃度10%の液体で、ショ糖に関しては全ての尿素よりも劣った結果になりました。
また尿に群がったアリは砂が乾いた後もずっとその場所を探索しつづけ、尿の残留物を得るために数インチのトンネルさえ掘りました。
プティ氏は、観察をするたびにアリがまだそこにいたことに驚いたと振り返り、彼らの尿への執着心に崇敬の念さえ抱くと感想を述べています。
尿には生物の生存に欠かせない窒素が含まれている
シュガーアントの一種 (Photo/patrickkavanagh/Flickr)
尿には、生物の生存にとって欠かすことのできない成分である「窒素」が含まれています。
しかし窒素は体内に留めておくことができないため、摂取されたものはいずれ尿として体外に排出されることになります。
実験が行われたカンガルー島は乾燥した地域であるため、屋外に撒かれた尿はすぐに蒸発してしまいます。
にもかかわらずアリたちは、実験中少なくとも29日間、尿が撒かれた場所を離れませんでした。
尿から窒素を獲得する行為は他のアリの種でも見られますが、カンガルー島のシュガーアントのように、乾いた砂からそれを行うことが確認されたのは今回が初めてのことです。
プティ氏は、この島には元々窒素が少ないと説明し、それがアリたちの尿への執着心に結び付いていると指摘しています。
研究チームは砂から窒素を得ようとするシュガーアントの行動は、過酷な環境で生きるための適応の結果であると結論づけています。
今回の研究に関与しなかったオクラホマ大学の生態学者マイケル・カスパリ氏は、尿を「事実上の自然のスポーツドリンクである」と表現し、地面に撒かれた尿はアリにとって特に価値があるかもしれないと語っています。
またアリたちのコロニーが固定していることを挙げ、巣の付近に撒かれた尿はアリたちにとっての“幸運な”資源になると話しました。
今回の研究結果は、査読付きジャーナル「Austral Ecology」に掲載されています。
カンガルー島にはコアラやエミューなんかのオーストラリアの固有種がたくさんいるんだって
おしっこが好きなアリもこの島で独特の進化を遂げたのかもしれないねー
References: Science