蛇はその外見や毒を持っているという先入観から嫌われがちな生き物です。
しかし蛇をよく知ると、当たり前だと考えてきた前提がただの誤解であることがわかります。
オーストラリアのチャールズスタート大学の爬虫類学者であるダミアン・マイケル氏は、ヘビにまつわるいくつかの通説について、専門家の立場から解説しています。
蛇は有毒だ
通常、動植物が「有毒である」という場合、そこには二つの状況があります。
一つは外側に触れただけで毒であるもの、もう一つは体内(血流)に毒が入ることで効果が発揮されるものです。
毒蛇の毒は後者を指します。
毒蛇は基本的には、「噛まれた場合にのみ」危険な蛇と言えます。
人間が恐れなければならないのは、毒蛇そのものではなく、噛まれて毒を注入されることです。
世界中に生息している毒蛇
インドの四大毒蛇の一種ラッセルクサリヘビ (tontantravel/Flickr)
世界には3800種以上のヘビがおり、そのうちの約20%が毒を持っています。
毒の量や効果はそれぞれ異なり、全てが人間にとって致命的というわけではありません。
最も危険な毒蛇としてランキングされているのは、オーストラリアに生息する「ナイリクタイパン」です。
ナイリクタイパンが一回の噛みつきで放出する毒の量は、成人男性100人を死に至らしめます。
また筋力も強く巻きつかれた場合、獲物が生き残れる可能性はほぼゼロです。
しかしこの蛇はオーストラリア中部の乾燥地域に生息しているため、人間が被害に遭うことは滅多にありません。
毒蛇による人的被害という点では、ナイリクタイパンよりももっと恐ろしい種がいます。
それはインドに生息する「インドコブラ」、「アマガサヘビ」、「ラッセルクサリヘビ」、「カーペットバイパー」の4種です。
これらの蛇はしばしば致命的な結果をもたらすため「ビッグ4」と呼ばれ、非常に警戒されています。
蛇による死者数はオーストラリアでは毎年1人か2人ですが、全世界では80,000~130,000人、インドにおいては毎年58,000人近くが命を落としています。
地域による死者数の違いは、主に抗毒素の有無や医療体制と関係があります。
蛇の視力は悪い
ナイリクタイパンに次ぐ猛毒をもつイースタンブラウンスネーク (John Englart/Flickr)
蛇は視力が悪いというのが通説です。
実際にほとんどの蛇は視力が悪く、夜に活動する蛇や穴を掘る蛇については特に当てはまります。
しかし日中に活動する蛇は、比較的良好な視力をもっています。
1999年に行われた調査では、オーストラリアに生息する毒蛇「イースタンブラウンスネーク」が、空の色と対照的な服を着た人間を避けることが明らかになりました。
これは蛇が周囲の色を判別し、自然ではない色に対し警戒心を抱いていることを表しています。
またアメリカに生息するムチヘビの一種は、危険を感じた際に血管を収縮させ、一時的に視力をアップさせる能力を持っています。
こうした例は、全ての蛇の視力が悪いわけではないことを示しています。
若い蛇は大人の蛇よりも危険だ
この通説は、若い蛇は毒の注入量を調節できないのではないか、という考えに基づいています。
しかしこれを証明する科学的な証拠は存在しません。
蛇の毒は成長段階によって性質が変わる場合があります。
ブラウンスネークの毒を調査した2017年の研究では、若い個体の毒は爬虫類に効きやすく、大人の毒は哺乳類によく効くことが明らかになっています。
実際この蛇の種は、体の大きさに合わせて獲物を変えています。
蛇は攻撃的だ
これはおそらくほとんどの人が誤って認識している通説です。
実際には蛇がいきなり攻撃してくることはなく、必ず前段階として威嚇行動を見せます。
さらにもっと臆病な蛇は、戦わずに人間の前から姿を消そうとします。
蛇がこちらに向かってくる原因は、警告を無視した場合と、自分の後方に蛇の逃げ道がある場合の二つしかありません。
動物の多くは、蛇の威嚇を非常に真剣に受け止めます。
アカゲザルやニホンザルに威嚇姿勢の蛇を見せると、脳の活動が活発になり身構えるようになります。
また人間の幼児(7~10ヵ月齢)も、本能的に蛇を危険と感じることがわかっています。
蛇に対する誤った知識は不安を増強させ、蛇を恐怖の対象としてとらえることにつながっていきます。
しかし蛇は基本的に人間と関わりたくはなく、毒を使った攻撃は、彼らの最終手段です。
マイケル氏は、「蛇は素晴らしい生き物であり恐れるべきではない」と述べ、「もし遭遇したならば、急な動きをせず、ゆっくりとその場を立ち去るように」とアドバイスしています。

日本だと蛇を見る機会が少ないから余計に怖く感じるのかも

毛嫌いせずにもっと蛇のことを知ってもらいたいね
Reference: The Conversation