アリが見せた過酷な環境を生き延びるための驚きの生存戦略

動物
Image by Hans Braxmeier from Pixabay

西ポーランドにはソビエト連邦時代に放棄された、核攻撃から身を守るためのバンカーがいくつも残っています。

現在それらは自然に覆われ、動植物たちの住処となっている場所もあります。

2010年代に入り動植物を保護するポランティア団体がバンカーの調査に赴き、そこで生活している様々な動物たちを監視するようになりました。

放棄された軍事施設は動物たちが冬をやり過ごすための格好のねぐらとなっていますが、施設にはもっと小さな動物も紛れ込んでいます。

 

2013年に発見されたあるバンカーではとても不思議なことが起こっていました。

バンカーの密閉された一室では、「Formica polyctena」と呼ばれるアリの大群がコロニーを作っていました。

このアリたちは発見当時、すでに約百万匹が生息していました。

しかしこの地下バンカーには――時折紛れ込むネズミの死骸以外には――彼らの餌となるものが存在しません。

またさらに驚くべきことは、このコロニーには女王アリが存在していませんでした。

それにもかかわらず百万もの個体が密閉された空間で生活できていることは、通常では考えられないことです。

また彼らがどうやってこの場所に侵入したのかも謎でした。

 

その後昆虫学者の調査により、この密室には意外な事実が隠されていることがわかりました。

閉鎖された空間でアリたちが生きていくために選んだのは驚きの方法でした。

 

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アリたちの究極の生存戦略、全てはコロニーのため

 

アリの生活条件の限界値を知ることは、一部の昆虫学者にとって大きな関心事の一つです。

西ポーランドのバンカーで見つかったコロニーは、アリが過酷な環境にどれだけ適応できるのかについて昆虫学者を驚かせました。

ポーランドにあるアダム・ミツキェヴィチ大学の、Tomasz Rutkowski氏たちの研究チームは、アリたちが生息しているバンカーの地面に、数えきれないほどの同種のアリの死骸があるのを発見しました。

この場所は密閉されているため、アリを襲うような動物はいません。

では一体アリたちは誰に襲われたのでしょうか。

 

研究者たちは、この部屋の天井にある換気パイプが地上のどことつながっているのかを疑います。

 

バンカーの天井部分にある換気パイプ Photo by Wojciech Stephan jhr.pensoft.net

 

換気パイプは長年の放置によりさび付いていました。

そしてパイプをたどると、ちょうどその真上の地上部分が、土で覆われたアリの巣になっていることがわかりました。

これらの証拠から、バンカー内のアリたちは地上にできた巣からさび付いたパイプを通して部屋に落ちたのだと推測されました。

 

アリがこの密閉空間にいる理由はわかりましたが、これだけでは大量の死骸の説明はできません。

昆虫学者たちは、バンカーに落ちたアリたちが地上に戻る手段がないにも関わらず、コロニーが長い間形成されていたことに注目します。

コロニーは2013年の最初の発見以降、2016年の調査でも存在していたことが確認されています。

コロニーの維持、そして餌となるものがないこと、さらに地面の大量のアリの死骸……ここから導き出される答えは一つしかありません。

それはアリたちが死んだ仲間のアリを食べる「共食い」です。

 

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過酷な環境に適応する手段としての共食い

 

研究者は共食いを証明するために、死んだアリを回収しその体を詳しく調べました。

その結果、死骸の約93%に噛まれた時に生じる穴がいくつもあることがわかりました。

これは生きているアリが、死んでいる、もしくは弱っているアリを食べたことを示しています。

このコロニーには女王アリが存在しておらず、また光もなく通常の食料もない環境です。

それでも長期間に渡りアリたちがコロニーを維持できたのは、共食いという選択によるものです。

 

自分の子孫を作ることなく長年にわたってバンカーのコロニーを維持できたことは、換気パイプから落ちてくる地上のアリと共食いのおかげだと研究は結論づけています。

 


 

その後の調査で閉鎖されたバンカーのアリたちは、偶然部屋の壁に立てかけられていた朽ち木を伝って換気パイプまで到達することが可能だったことがわかりました。

つまり――落ちてくるときと比べればかなり困難なものの――地上に出る手段がなかったわけではありません。

それでもこの閉鎖された空間でコロニーが維持されてきたということは、アリたちが生き延びるための最善の選択肢として共食いを採用してきたことを意味します。

 

このFormica polyctenaというアリは、餌のない時期に敵対するコロニーと定期的に戦争をすることがあり、その際に犠牲となったアリは仲間によって食べられることがあります。

しかし共食いは通常の餌を得ることに比べ著しく効率が悪いため、栄養を摂取する手段としては限定的な戦略と言えます。

バンカーで見つかったコロニーは、アリたちがそれぞれの環境に合わせ、生きるための最善の方法を選択していることを明らかにしています。

(調査の後研究チームはバンカーに落ちたアリたちを助けるため、天井の換気パイプとつながる木製の梁を設置しました。4カ月後の調査では、バンカーに落ちた全てのアリが地上に戻ったことが確認されました)

 


 

 

せつな
せつな

生きるために仲間を食べなきゃならない……これは究極の選択

かなで
かなで

年老いたアリは戦争のときに食べられちゃうこともあるんだって!コロニーを守っていくのも大変なんだねー

 

 

References:ScienceAlert