知的な動物として知られるカラスですが、実際にその知能レベルがどれくらいなのかははっきりしていません。
最近行われた実験によれば、カラスは少なくとも3歳から5歳くらいの人間の子供と同等の賢さを持っています。
カラスは将来の大きな利益のために今ある小さな利益を手放すことができます。
カラスの自制心は人間の5歳程度の子供と同等
英国ケンブリッジ大学の心理学者レイチェル・ミラー氏が率いる研究チームは、子供の心理テストで有名な「マシュマロ・テスト(マシュマロ実験)」を使って、カラスの自制心を測定する実験を行っています。
1960年代後半に最初に行われたマシュマロ・テストは、子供を1個のマシュマロが置かれた部屋に入れ、「もし15分間マシュマロを食べないでいられればマシュマロをもう1個あげる」と約束したあと、子供を一人部屋に残しその後の行動を観察するという実験です。
結果は、3分の1ほどの子供が誘惑に耐え2個目のマシュマロを手に入れることができました。
この実験は、将来のもっと大きな利益のために今ある利益を手放すことができるかという、人間の成功になくてはならない「自制心」を測定するものです。
(ちなみに子供の時期に自制心を保つことができた人は、大人になってもそれを維持しつづける傾向にあることがわかっています)
科学誌Animal Cognitionに掲載された研究の中でミラー氏たちが行った実験には、9匹の野生のカラス(雄5匹、雌4匹)と、比較対象として3歳から5歳までの61人の子供(男子31人、女子30人)が参加しました。
カラスの実験では密閉された小屋の中にテーブルを置き、その上に回転するトレイと、それを覆うための透明のプラスチックケースが設置されました。
ケースの側面のうちの一つには開口部分があり、トレイの一部分が少しだけ外にでるような作りになっています。
実験で使われた回転トレイ Credit: Rachael Miller,Animal Cognition
トレイには2種類の餌が置かれました。
一つはリンゴ片などの小さな餌で、もう一つは肉片などのカラスにとってごちそうとなるような餌です。
トレイの上に置かれた餌は、実験開始から5秒後と15秒後にそれぞれ外に出るように設定され、どちらにより良い餌が置かれるのかは20回の実験ごとに異なりました。
カラスがどちらかの餌を食べた時点で実験は終了となります。
子供を対象にした実験では、キラキラ光る絵が描かれたステッカーと、ただの白い正方形の小さなステッカーがトレイに置かれ、どちらを選ぶのかが測定されました。
またトレイにかぶせるプラスチックケースに色を塗り、中の報酬を見ることができないようにしたパターンでも実験が行われました。
結果、カラスは20回の実験全てにおいて貧弱な餌をやり過ごし、より良い質の餌を選びました。
子供も似たような結果でしたが、子供の場合は年齢が低いほど、大きなステッカーを待てない傾向にありました。
一方トレイが上から見えないパターンの場合、カラスは待つことをせず最初の餌を口にしました。
これはカラスに自制心がなかったからではなく、実験のセッティングをする際――つまり研究者がトレイに餌を置くときにカラスが人間から距離を取っていたことが原因だと考えられます。
カラスはトレイを見ることができないため、最初に出てくる餌が良いものかどうかを判別することができませんでした。
逆に子供は、トレイの中身が見えなくても大きなステッカーを選ぶことができました。
子供は研究者のセッティング中も――カラスとは異なり――研究者の近くにいたため、トレイに2つのステッカーが置かれていることを理解していました。
研究者はトレイの中身が見えない場合、カラスは次にどういう行動を取るのかに対し精神的な負担を感じていたのではないかと推測しています。
これはカラスがトレイを上から見ることができなくなったため、一時的に混乱してしまった可能性があることを意味します。
研究チームは今回の鳥の自制心に関する結果について、将来別の種で行われる似たような自制心の研究の基礎になるものだと語っています。
自然界を生き抜くためのカラスの知恵
カラスの知性に関する研究は過去にも行われており、2014年の研究では、その知的レベルが7歳から10歳の人間の子供相当であるという結果が出ています。
今回の結果もそれを裏付けるものです。
実験結果で驚くのは、カラスがトレイの中身が見えなくなった時に、常に最初の餌を選んだことです。
通常これが人間の場合、過去の報酬を覚えているせいで待つ選択をしてしまいがちです。
しかしカラスは、先のことがわからない以上、待つという選択を取らずに今ある餌を口にしました。
これは次にいつ餌を食べられるかわからない過酷な自然で生き抜くための、重要な選択スキルと言えます。
カラスの自制心は人間の子供と同等であり、より良い報酬のために目の前の誘惑に耐えることができます。
そして野生という先の見えない環境では、状況に応じた柔軟な適応力を発揮することもできます。
数秒とはいえ目の前の餌を我慢できるのはなかなかできないことだよね~
またダイエット中におやつを食べてしまった……後悔……
カラス以下の人がいるよー!
References:Animal Cognition