素晴らしい歌を聞くのは楽しいことですが歌を歌う生き物は人間だけではありません。
動物の多くが仲間との”会話”のために独特の歌を歌うことが知られています。
コスタリカの雲霧林の下に住む歌うネズミもそのうちの一つです。
彼らは歌うだけでなく仲間とデュエットすることもできます。
新しい研究は歌うネズミの脳の仕組みが将来ヒトの脳に関係する病の治療に役立つ可能性を見出しています。
Alston’s singing mouseが歌う様子 Image:YouTube
3月1日のサイエンス誌に掲載された研究は、歌うネズミの脳のパターンを分析することで得られた結果が、ヒトの会話を迅速にやり取りするための新しい洞察につながることを示しました。
ニューヨーク大学医学部の神経学者であり研究の共著者であるMichael Long氏たちのグループは、コスタリカに生息する歌うネズミ「Alston’s singing mice」の歌う際に見られる脳波のパターンを調べました。
それによると彼らは2つのシステムを持っていて、1つは歌うことやその内容を制御すること、もう1つが相手の歌に対して反応することに分かれていました。
そしてこれらが反応する速度はとても早く1秒未満であることもわかりました。
この研究についてLong氏は次のように語ります。
私たちの研究は運動野と呼ばれる脳の領域がネズミと人間の両方で対話のために必要であることを実証しています。
ネズミが瞬時に相手の歌を理解し声を発するメカニズムを知ることで、脳卒中などを原因とする会話のやり取りの問題に対し新しい理解が得られるかもしれないとしています。
研究チームはAlston’s singing miceの持つ脳の2つの領域に制御を加えました。
中でもOMC(Orofacial Motor Cortex――口腔顔面運動皮質)と呼ばれる相手の歌に反応する部分に注目しました。
OMCを冷却して神経細胞の活動を遅らせると、歌は長くなる一方で相手の歌に対する反応が鈍くなりました。
また薬を使ってOMCの機能を停止した場合はさらに反応が鈍くなり相手の歌に合わせるのに苦労することがわかりました。
一方でもう1つの部分である”歌うこと”自体には影響はありませんでした。
この結果からOMCが相手との”デュエット”に必要なタイミングを調整している部分であることがわかりました。
Alston’s singing miceのOMCは人間が会話をする際に用いる脳の領域と正確には一致しないかもしれません。
それでも研究結果は人間の会話がどのようにして行われているのかについての理解を深めます。
Long氏はこの結果が、コミュニケーションに影響を与える障害の新たな治療法につながる可能性があると語っています。
今回の研究には参加していなかったノーザンアリゾナ大学の生物学者Bret Pasch氏によると、Alston’s singing miceの歌う行動は仲間を引き付けたり縄張りを奪い合ったりするときに行われるそうです。
またマイクを様々な動物に向けることで彼らの多くが声を使っていることがわかってきており、そうした創造的な方法で動物を研究ことには利点があることを強調しています。
Two male singing mice belt out a duet | Science News
人間とネズミの脳の構造は異なるためすぐに新しい治療法の発見とはいかないかもしれません。
研究が今後ネズミの”歌唱力”を解き明かし人間を魅了する結果になることを期待したいですね。
References:ScienceNews,mnn