犬はペットとしてだけではなく、その卓越した能力を人間のために使ってくれています。
警察犬や介護犬、盲導犬など身近なところでわんこが働いているのをみると微笑ましくなります。
アメリカの空港では、爆発物や密輸品のにおいをかぎ分けるために1000頭以上のわんこが日夜仕事に従事しています。
アメリカ合衆国運輸保安庁(Transportation Security Administration, TSA)は最近、採用する犬種の傾向を変え始めました。
これまでは耳の尖った犬種――ジャーマンシェパードやマリノア(ベルギー原産のシェパード)が多かったのですが、耳の垂れ下がった犬種の割合が増してきているのです。
これには一体どんな理由があるのでしょうか。
鼻の能力はもちろん耳の形状も重要
多くの人間が集まる場所で仕事をする犬の特徴的な能力――それはなんといっても鋭敏な嗅覚でしょう。
違法薬物や爆発物などを検知する能力は到底人間の及ぶものではありません。
しかしTSAによると空港で働く犬には耳の形状も重要であるといいます。
TSAの管理者の一人David Pekoske氏は、最近おこなったワシントン・ダレス空港でのガイドでそのことを認めました。
私たちは垂れ耳の犬を採用するように心がけています。それは観光客の受けがよいのと……子供たちが怖がらないからです。
垂れ耳犬としてTSAに“就職”してくる犬たちは、ラブラドール・レトリーバー、ジャーマン・ショートヘアード・ポインター、ワイヤーヘアード・ポインター、ショートヘアード・ハンガリアン・ビズラ、そしてゴールデン・レトリーバーの5種です。
TSAは連邦機関の中で2番目に多くの犬を雇っています。
現在全国に派遣されている犬は約1,200頭で、そのうちの80%が垂れ耳の犬で占められています。
耳の形状で採用が決まるわけではない
もし外見だけが採用基準であるならば、尖った耳の犬たちはどんなに能力が高くても仕事にありつくことができません。
それは明らかに不公平です。
しかしTSAの訓練センター長であるChristopher Shelton氏は、垂れ耳犬が採用されるようになったのには別の理由もあると述べています。
垂れ耳犬の採用が増えたのは、ブリーダーが垂れ耳犬を数多く飼育しているからだよ。
ブリーダーは警察や空港にだけ犬を納入しているわけではありません。
見た目のよい犬を飼いたいという人たちも相手にしています。
垂れ耳犬が人気であるという買い手の需要も考慮した結果、というわけです。
ペットとして飼いたい場合は見た目は確かに重要かもしれません。
しかしそこは大勢の命を守る重要な仕事――尖った耳だろうが垂れた耳だろうが全ては能力主義だといいます。
Shelton氏は耳の形で採用を見送ることはない、まず何より犬の能力が第一だ、と語っています。
一方でTSAの広報担当者であるLisa Farbstein氏は、垂れ耳犬の採用は“非公式”であるが考慮している部分もあるとしています。
その背景には、人々が尖った耳をしている犬を威圧的だとみなす傾向がある、といういくつかの研究結果があります。
尖った耳をした犬の不採用を進めるTSAの行動には、SNSで反論する人も出てきています。
あるTwitterユーザーは、TSAの仕事は(尖った耳の犬を排除するのではなく)ジャーマンシェパードのような犬を“かっこいい”と教育することではないか、と今回の動きを皮肉っています。
能力があっても見た目で判断される……どこかで聞いたことがあるようなないような話が動物の世界にも広がっているのだとしたらちょっと悲しい感じがします。
人々が尖った耳をした犬を警戒するという科学的根拠はない
進化論の提唱者チャールズ・ダーウィンは、進化の過程について考えるときには“耳”を重視しました。
ダーウィンは著書「The Variation of Animals and Plants under Domestication」の中で、我々が飼いならしてきた四足動物は知られているかぎり直立した耳をもつ種に由来する、と述べています。
そして家畜化が進み周囲の脅威に対して耳を立てる必要がなくなったことで、段々と耳が垂れてきたのだと説明しています。
2013年に行われたある調査では、124人の参加者に尖った耳と垂れた耳の犬の画像を見せたところ、垂れた耳の犬の画像を見たグループのほうが感情的に安定しているという結果がでました。
しかしこれは認知の偏りによるもので、尖った耳の犬がより脅威である証明にはなりません。
人は、過去に接した犬との経験に基づいてこのような判断をしている可能性があります。
マサチューセッツ大学メディカルスクール及びブロード研究所助教授のElinor K. Karlsson氏は、尖った耳の犬が友好的でないことを示す研究結果はないと述べています。
人々が垂れ耳犬を親しみやすいと思っているのは、彼らが個人的に知っている犬がそうだからにすぎません。
Karlsson氏は、この種の知覚の偏りは人間の特性であり、それは犬だけではなく人間同士の間でも行われている、と語っています。
こうした研究を見ると、SNSでTSAに反論していた人の意見――シェパードをかっこいいと思ってもらうような啓蒙活動をするべき――というのも、案外的を得た指摘かもしれません。
働く犬は賢くかわいく、そしてカッコいい!
TSAの別の広報担当者であるJames Gregory氏によると、非公式に外見を重視しているといってもその採用基準は全て能力による、としています。
健康であること、においを検出する能力と意欲、そして人々と社会に対する適応力、この3点を満たさなければ空港で働くことはできないのです。
また犬の訓練には26,000ドルから42,000ドルのお金が必要になるため、外見だけで簡単に採用するわけにはいきません。
職業犬は厳しい審査と採用基準をくぐり抜けた勇士です。
TSAで働くわんこたちの姿をいくつか紹介します。
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ハーツフィールド・ジャクソン・アトランタ国際空港で爆発物探知の仕事をしているマーリー
マーリーがしている“ペットにしないでください”の帯は、仕事に集中できるようにするためのものです。
(もしあなたが仕事中に、見知らぬだれかから頭やお腹をなでられたら嫌な気分になりますよね?)
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ポートランド国際空港の爆発物探知犬オリバー。ちょっと休憩するから一杯!
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ウィリアム・P・ホビー空港の爆発物探知犬ユルゲンスとパートナー。Kong Fuなる必殺技の練習中。
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マンチェスター・ボストン地域空港で働くCsoki。彼はTSAの歴史で最も古い爆発物探知犬です。
いろんな職業犬が私たちの快適で安全な生活のために働いています。
能力に耳の形状は関係ありません。
一生懸命頑張る犬たちの一層の活躍と健康を祈ります。
TSAのインタグラムには仕事に忠実に励む職業犬の素晴らしい写真がたくさんあるので、気になった方はぜひ見てみてください。
なるほどー!見た目で印象がかわるんだねー
ちょっと試してみるのもいいかもしれない……
なんだ……そのにやけた顔は?何もやらんし何も言わないぞ?
うわ~ん撃沈だよー!
やはり敵は手ごわかった……
References:washingtonpost,mnn