エクアドルの環境省は、ガラパゴス諸島にある島の一つサンタ・クルス島で行ってきたガラパゴスゾウガメの繁殖プログラムを終了すると発表しました。
ガラパゴス諸島に生息しているゾウガメの種は、18世紀から19世紀にかけて漁師や海賊などの食料として乱獲され、また彼らが持ち込んだ侵入種(山羊や牛、ロバなど)によって生息地を奪われ個体数が激減しました。
サンタ・クルス島のガラパゴス国立公園では、1976年から絶滅の危機に瀕しているエスパニョーラゾウガメの繁殖プログラムが始まり、これまでに大きな成果を残しています。
12匹の雌と3匹の雄で始まった繁殖プログラムは、約40年でゾウガメの個体数を2,000匹以上にまで回復させました。
繁殖プログラムの終了について、ガラパゴス諸島の生態系を保護する活動を行っている「ガラパゴス・コンサーバンシー(Galapagos Conservancy)」のディレクター、ワシントン・タピア氏は、「2019年末に実施された最後の頭数調査の結果、現在この島にはカメの個体数を維持するのに十分な条件があると判断した」と述べています。
老いてなお盛ん!800匹の子供を残したディエゴ
エスパニョーラゾウガメが40数年で個体数を回復できたのは、繁殖プログラムに関わった全ての人たちの努力と苦労の他に、一匹のカリスマ的な雄の存在がありました。
「ディエゴ」の名で呼ばれるそのエスパニョーラゾウガメは、40年以上に及ぶ繁殖生活の中で実に800匹以上の子孫を残してきました。
現在島にいる2,000匹のカメのうちの40%がディエゴの血を引いています。
繁殖プログラム成功の立役者ディエゴ Image: YouTube
ディエゴは米国のサンディエゴ動物園が、1928年から1933年にかけてエスパニョール島から連れてきた多くのゾウガメのうちの一匹で、到着後は動物園で繁殖計画に参加していました。
その後ディエゴは生息数の激減したエスパニョーラゾウガメを救うための繁殖プロジェクトに加わるため、1977年、ガラパゴス諸島のサンタ・クルス島にあるチャールズ・ダーウィン研究所に向かいました。
12匹の雌と3匹の雄で始まった繁殖プログラムは、生殖活動に意欲的なディエゴの活躍によって順調に進みました。
また、100歳を超えても衰えを知らないディエゴの“性豪”ぶりが広く世界に伝わったことは、ガラパゴス諸島の置かれている現状に、多くの人が関心を抱くきっかけにもなりました。
100歳を超えてなお精力的なディエゴ Image: YouTube
先述したように、現在島の2,000匹以上のゾウガメのうち40%はディエゴの血を引いています。
……では残りの60%は誰の血を引いているのでしょう。
繁殖プログラムに加わった雄はディエゴの他に、「E3」と「E5」と呼ばれる個体がいます。
彼らはディエゴに比べて特徴的ではなかったため、今でも固有の名前を持っていません。
しかし実はこの中の「E5」が、残りの60%のゾウガメたちの父親です。
ディエゴの繁殖への情熱を伝えるニュースが世界を駆けめぐっている裏で、E5は黙々と自分の血を残す仕事に明け暮れていました。
ディエゴだけが注目されてきたことについて、ニューヨーク州立大学の生物学者ジェームズ・ギブス教授は、「ディエゴが非常に攻撃的で活発な性格であり、繁殖のときにうるさいことが世の注目を集める格好の材料になったのではないか」と述べています。
一方のE5はとても大人しい性格で、交尾は主に夜に行っていました。
(……もう一頭のE3はというと、残念ながらほとんど“仕事”をしなかったようです)
ディエゴたち3匹の雄と12匹の雌たちは検疫プロセスを経た後、今年の3月に、故郷であるエスパニョーラ島に帰る予定です。
ガラパゴスゾウガメの種の中には絶滅しちゃったのもいるから、ディエゴの活躍はうれしいニュースだね!
ディエゴもすごいけど実はE5の方が性豪と呼ぶにふさわしいのでは……
References: Galapagos Conservancy,mnn