英国の動物保護団体「The Donkey Sanctuary」は、国内だけでなく、世界中のロバとラバを虐待から救い生涯にわたるケアを施す活動をしています。
英国とヨーロッパに10ある保護区(サンクチュアリ)では、現在6,000頭を超えるロバとラバが飼育されており、また世界35ヵ国で約180万頭のロバやラバに対して継続的な働きかけを行っています。
ロバやラバは、古くから人間の荷物を運ぶ重要な輸送動物として親しまれてきました。
車の通れない急峻な山道などではいまでも現役です。
その素晴らしい人類の友人でもあるロバは現在、ある商品の世界的需要のために急激に数を減らしています。
ロバは、中国に伝わる伝統的な薬の材料として殺されています。
阿膠の需要の高まりにより世界のロバの数が減少している
ロバの皮が原料の漢方薬「阿膠」
Donkey Sanctuaryは、過去数十年にわたり、「阿膠(あきょう)」と呼ばれる中国の伝統的な漢方薬のために世界中でロバが殺されていると報告しています。
阿膠はロバの皮から作られるゼラチンのことで、中国では古くから生薬の一種として扱われてきました。
ロバの皮に含まれる成分が血液に効果をもたらすことから、貧血や美容のために販売され、今でも高い値段で取引されています。
現在この業界では、年間約480万個のロバの皮が必要であり、そのために中国のロバの数は1992年以来76%減少しています。
取引の多くは違法で規制されていないため正確な数字を得るのは難しいものの、阿膠の年間生産量は2013年から2016年にかけて3,300トンから5,600トンに増加し、年間では20%増加しています。
ロバの3分の1以上は中国から調達されていますが、残りの部分については他の国からやってきています。
阿膠の需要が高まるにつれ、ロバは特に、生活にそれを必要とする発展途上国から持ち込まれるようになり、ブラジルやアフリカの一部の地域ではロバの生息数が崩壊し始めています。
Donkey SanctuaryのCEO、マイク・ベイカー氏は、阿膠の需要によって、ロバという「信頼できる、勤勉で、感覚のある動物」がひどい苦痛を経験している、と報告書に書きました。
ベイカー氏は、皮を剥がれるために連れてこられるロバは、食べ物や水、休息さえも与えられず残酷な状況で殺されることがしばしばあると嘆いています。
中国の伝統には敬意を払うべきです。
しかしロバという動物の素晴らしさは、一回だけの皮の利用で評価されるべきものではありません。
カリフォルニア大学デービス校の動物行動学者エイミー・マクリーン氏は、現在のロバの置かれた状況が「恐ろしい」ものであると指摘し、このロバという、作業や運搬に適した動物が失われることは、人々が自分で荷物を背負うことにつながると警告しました。
現在アフリカでロバを売ると200ドル以上になります。
しかしこの取引が近視眼的であることは明らかです。
マクリーン氏は、ロバが人や物資を運搬することで世界中の5億人の生活を支えていることを挙げ、ロバが失われることは「人々がロバになる」ことを意味すると語っています。
Donkey Sanctuaryは報告書の中で、アフリカで働くロバが女性の負担を軽減し、子供や家族の世話をする時間を増やすのに役立っていると説明しました。
ロバがいなくなれば、荷物を運ぶのは人間の仕事になるでしょう。
ロバの減少はアフリカだけでなくブラジルでも顕著で、報告ではわずか10年で28%も数が減っています。
他にもモーリタニア、メキシコ、ペルー、エジプト、ガーナ、エチオピアなど多くの国のロバが急速にその数を減らしていることがわかっています。
現在の主な阿膠の輸出先は、米国、カナダ、オーストラリア、そして日本です。
経済国の欲望のために犠牲になるロバたち
ロバの繁殖は遅く、一人前のロバが育つには最低でも2年がかかります。
阿膠のブームがなかった頃は、中国国内のロバの生産だけで皮を賄うことができましたが、現在の需要の高まりはロバの成長を待ってはくれません。
ロバの皮を取引する業者は海外に出向いては地元で働くロバを買い取り、それを中国に輸出しています。(ロバは現地で殺された後、皮が中国に密輸されることになります)
阿膠の需要がさらに続く場合、ロバは世界から一掃されてしまうおそれがあります。
Donkey Sanctuaryは抜本的な対策を講じなければ、世界のロバは5年以内に半減するだろうとしています。
Donkey Sanctuaryは、現時点でロバの取引を監視したり追跡したりする手段が乏しいことを理由に、ロバの取引を全面停止するよう求めています。
阿膠はいわゆる健康食品として日本でも購入することができます。
漢方薬としての歴史は長く、中国の製造会社の技術は無形文化財に登録されているほどです。
しかし世界的なブームがこれまでの需給のバランスを崩してしまいました。
昨日まで人間のパートナーとして運搬の仕事をしていたロバが、次の日には200ドルで売られ皮にされてしまう現実は、日本を含む、経済大国の消費者の欲望によってさらに拡大しつつあります。
阿膠の効能は厳密な臨床試験によって裏付けられていません。
効くかどうかわからないもののために簡単に殺されるロバの数は今日も増え続けています。
わざわざロバの皮を健康食品にする必要なんてないのに……
業者も許せないが買う方にも責任はある
ロバの置かれている現状をもっとみんなに知って欲しいよー
References: ScienceAlert,Science