中東の金持ちたちのブームの一つが希少な野生動物を飼うことです。
なかでも陸上で最も足の速い動物であるチーターを飼うことは、彼らのちょっとしたステータスとなっています。
チーターはアフリカのソマリアから独立した国であるソマリランドからやってきています。
内戦により経済が疲弊しアフリカ屈指の貧困国でもあるソマリランドは、チーターを密輸している主要な国の一つです。
(ソマリランドは1991年の内戦の際にソマリア連邦共和国から独立を宣言した国ですが、国際的には国家として承認されていません。ソマリアは現在でもその主権を巡り各地で対立が起きています)
野生のチーターを保護する活動を続けている非営利組織「チーター保護基金(Cheetah Conservation Fund-CCF)」は、毎年約300頭の若いチーターを密輸から救い出しています。
CCFによるとチーターの密輸は“最近の流行”であり、現在の密輸ペースが続くならば数年後には野生のチーターはいなくなってしまう可能性があります。
密輸されたチーターのほとんどが1~2年で命を落とす
Image by Susanne Jutzeler, suju-foto from Pixabay
CCFの調査では、現在野生のチーターは7500頭ほどが生息していて、その他に約1000頭が湾岸諸国の私有地で“拘束”されています。
金持ちたちに飼われているチーターのほとんどはオンラインで違法取引されたものです。
アラブ首長国連邦やサウジアラビアを含む多くの湾岸諸国は、野生動物の個人所有と販売を禁止していますが、その取り締まりは非常に緩やかであり機能しているとは言い難いのが現状です。
CCFはチーターを飼うことが金持ちたちにとっての“一種の流行”であると断定していて、それは昨今のチーターの密輸の増加と、湾岸諸国の富裕層がたくさんのチーターの写真や動画をSNSで発信していることから明らかです。
密輸されるチーターの多くは子供です。
しかし4頭のうち3頭は現地に到着する前に死に、生き延びたとしても狭い空間に閉じ込められていたことが原因でそのほとんどは足を怪我した状態で現地に到着します。
チーターの飼育には走るスペースと特別な食事が必要ですが、買い手はもちろんのこと、密輸業者でさえもチーターの飼育方法や生態について無知であることがほとんどであり、チーターの大部分が密輸された後1年か2年以内に命を落としています。
CCFを設立した保全生物学者であるローリー・マーカー博士は「チーターをペットとして飼っている人は種を絶滅させている」と述べ、密輸に関わる人達を非難しています。
実際に湾岸諸国に密輸されたチーターはそのほとんどが短命であり、また体に何らかの障害を持つ可能性が高いため、現地の獣医たちは密輸の実態とチーターの現状について多くを知っています。
CNNに対し匿名で語ったある獣医は、「過去5年の間に多くのチーターを治療してきたが、彼らの多くはひどい飼育下にあった」と証言しました。
獣医の元にやってきたチーターは代謝や消化機能に障害があり、また閉じ込めに起因するストレス関連の病気や肥満など、野生環境では見られない疾患を抱えていることもありました。
また別の獣医はチーターなどの大型の猫はとてもデリケートであり特に感染症に弱いと指摘し、密輸によって囚われの身となることはチーターにとって「行き止まりを意味する」と語っています。
チーターは「絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引における条約」、いわゆるワシントン条約によりその取引が国際的に禁止されている動物です。
しかし中東の富裕層たちのSNS上にチーターが存在している事実は、そこに需要と供給が成り立っていることを証明しています。
では誰が、どうやってチーターを密輸しているのでしょうか。
チーターの違法取引にはソーシャルメディアが使われる
Photo by Jimmy Edmonds/Flickr
CCFの2018年の調査では、1,367頭のチーターがソーシャルメディアを通じて湾岸諸国で販売されており、それらのほとんどはInstagramとYouTubeを使って取引されました。
またこれらのソーシャルメディアを使いチーターの販売を宣伝している国はその90%以上が湾岸諸国であり、そのうちの60%がサウジアラビアからのものでした。
CCFによるとチーター密輸業者のトップ3がサウジアラビアに本拠を置いていて、同国の密輸業者のネット広告は全体の5分の1を占めています。
CNNの取材に応じたサウジアラビアの密輸業者は、買い手のどんな要望にも応えることができる、と話します。
どんなチーターでも私たちは輸入することができます。雄を欲しいとしても雌を欲しいとしてもそれは問題ではありません。
この販売業者はこれまでに80頭以上のチーターを密輸してきたことを自慢げに語っています。
販売業者は最近チーターを売ったばかりだが、25日あれば新しいチーターを手配できると話していて、その証言から既に、アフリカと湾岸諸国との間にチーターを密輸するための強固なネットワークが存在していることがわかります。
業者によると生まれてから2~3か月くらいのチーターは1頭6,600ドルから販売されていて、2頭以上の注文があれば割引サービスを受けられるということです。
サウジアラビア政府はこの件に関するCNNのコメント要求にいまだ応じていません。
国連とインターポールの調べでは、野生動物の取引は年間最大200億ドルの価値があり、麻薬や人身売買とともに世界の違法産業トップ5のうちの1つです。
チーターの売買を止めるには、政府機関の協力だけでなく取引に使われているツールを運営する側の対応も必要です。
野生動物のオンラインでの売買に関したトラフィックを監視している専門家クロフォード・アラン氏によると、違法売買に利用されているSNSは主にFacebookとInstagramでしたが、ここ数年はFacebook社の違法取引に関する取り組みの強化によりFacebookを介した取引数は激減しています。
またアメリカの大手オークションサイトeBayは、過去3年間で10万件以上の違法な野生動物に関する広告を削除しました。
このような動きはチーターや他の絶滅危惧種を違法な売買から守る具体的な方法の一つですが、アラン氏は「ウェブ上には隠すのに十分な場所が豊富にある」と述べ、インターネット上の犯罪に対するより強力な監視方法が必要だとしています。
チーターにとっての最高の一生、それは野生で生きること
Photo by James Temple/Flickr
チーターを始めとした絶滅危惧種の売買は、私たちが考えている以上に頻繁に行われています。
そこには貧困にあえぐアフリカの国と、SNSによる見栄えのためにはお金を惜しまない中東の富裕層たちとの共犯関係があります。
1万頭に満たない数のチーターが生き残るには早急な対策が必要です。
CCFの設立者マーカ―博士は各国のリーダーシップに期待します。
本当に影響力のある人が必要です。政府、王、王子、または女王が、これは正しくないことだと言わなければなりません。
マーカー博士はチーターを救う活動を通して野生動物の違法売買の実態を世界に訴えていますが、一番の望みは彼らに最高の一生を与えることだと言います。
チーターにとっての最高の一生――それは人間に飼われることではなく、野生で生きることです。
ソマリランドは世界で最も開発が進んでいない国の一つで、野生動物の違法売買には多くの貧困に苦しむ人たちが従事しています。
政府は取り締まりを強化しており、またアラブ諸国に対して野生動物への需要を止めるべく働きかける必要があるとしていますが、環境大臣によれば現時点でできることは非常に限られているということです。
絶滅危惧種の存続と経済の不均衡は簡単には解決できない問題です。
References:CNN