見た目から敬遠されがちなヤモリには、特殊な運動能力が備わっています。
ヤモリは似たような外見のイモリとは違い、水を嫌うことが知られています。
これまでヤモリの運動能力は、水の前では発揮されないものと考えられてきました。
しかし今回ある実験で、それが誤りであることがわかりました。
ヤモリは必要ならば、水の上を走ったり水中に留まったりすることができます。
ヤモリは水が苦手、しかし必要ならば水面を走ることができる
ヤモリは足の裏に50万本もの小さな毛(繊毛・せんもう)が生えていて、それにより垂直な壁やガラス面などあらゆる表面に張り付き移動することができます。
ヤモリは水の中で生活するイモリと外見が似ているため、同じように水が得意であると勘違いされがちです。
しかしこれまで水の上を走るヤモリが目撃されたという報告はありませんでした。
分類上はヤモリが「爬虫類」、イモリが「両生類」で、イモリは日本語で「井守」と書くように水の中で生活する一方、ヤモリは水を好みません。
しかし今回、ある科学者が水の上を走るヤモリを発見し、改めてヤモリの持つ運動能力について関心が高まっています。
米国カリフォルニア大学バークレー校の生物物理学者ロバート・フル氏を中心としたチームは、メンバーの一人が水面を高速移動するヤモリを撮影したのをきっかけに、実験でそれを再現することにしました。
自然界には水の上を歩くことのできる生き物がいくつか存在しています。
例えばアメンボは極端に軽量であるため「表面張力」を使って水に浮くことできます。
しかしヤモリの場合、その体の重さから、表面張力だけでは水に浮くことはできません。
常識的には、ヤモリの体は水面を走るには大きすぎます。
研究チームは、ヤモリがどのようにして水面を走っているのかを知るために映像を何度も確認し、それを可能にしているのが、ヤモリの足にある無数の繊毛と水をはじく皮膚、そして足を水に叩きつける動作にあると推測しました。
ヤモリの水面歩行を可能にしている4つのポイント
チームは大型のプラスチック製の箱に出入口を作りそこに水を入れました。
そして側面と上方に高速度カメラを設置し、ヤモリの動きをモニタリングしました。
ヤモリの動きを詳細に捉えた映像は、ヤモリの運動能力の複雑なメカニズムを明らかにしました。
映像のヤモリは水面を走る際に、体を上方に向け水に浸からないようにしていました。
これは足先についている繊毛と、水をはじく皮膚を浮力として最大限に利用するための体勢であると考えられます。
またヤモリはまっすぐに走るのではなく、くねくねと体と尾を揺らしていました。
Image:Gecko Running on Water—Dorsal View, Related to Figure 2-Geckos Race Across the Water’s Surface Using Multiple Mechanisms
Image:Gecko Running on Water—Sagittal View, Related to Figure 2-Geckos Race Across the Water’s Surface Using Multiple Mechanisms
ヤモリの水面歩行は、繊毛のついた足を高速に動かし水に叩きつけることと、皮膚の持つ水をはじく能力、そしてくねくねとした動きの相互作用によって可能になっています。
チームは次に、水に界面活性剤を加え、ヤモリの水面歩行を観察しました。
界面活性剤は石鹸や洗剤に含まれる成分で、水に加わると分子の粘着性を失わせ、表面張力の効果を減少させます。
もしこの状態の水でも最初の実験と同様な動きをするのであれば、ヤモリは足の動きだけを使って水面を歩行していることになります。
しかし界面活性剤は、ヤモリの水面歩行を困難にしました。
Image:Gecko Moving in Soap and Water Mixture—Sagittal View, Related to Figures 2 and 3-Geckos Race Across the Water’s Surface Using Multiple Mechanisms
ほとんどのヤモリは水槽の端にたどり着く前にスピードが遅くなり、何匹かのヤモリに至っては水底に沈んでしまいました。(ヤモリは普段は水の中に入ることはありませんが、沈んだとしても数分間息を止めることができます)
この結果は、ヤモリの水面歩行には、足を叩きつける動作だけでなく、水をはじく撥水性の皮膚も大きく関わっていることを表しています。
研究チームは、ヤモリの水面歩行を可能にしているのは次の4つのポイントであると結論づけました。
ヤモリはこれら4つの動作のコンビネーションで水面を走っています。
研究メンバーの一人でオックスフォード大学とロックフェラー大学の生物物理学者であるジャスミン・ニロディ氏は、この実験には大きな意味があると述べます。
水面を移動するヤモリの運動のメカニズムは、将来、水没地域での救助活動ロボットの制作につながる可能性があります。
ニロディ氏は「自然は私たちに本当に多くのことを教えてくれる」と語り、ヤモリの動きの解明が新しい技術の開発につながることに期待を寄せました。
ヤモリが水面を走る姿を見ることができます。YouTube:How do geckos walk on water?
ヤモリの動きが救助ロボットの開発につながるなんてすごいねー
自然や生き物から学べることはまだまだたくさんありそうだね
References:Geckos’ new superpower is running on water; now we know how they do it,Geckos Race Across the Water’s Surface Using Multiple Mech