人類の古くからの友人である犬は、ボール遊び(フェッチ)が大好きです。
飼い主が投げたボールを追いかけ捕まえる姿は、人間と犬との間にある絆の深さを感じさせます。
ボール遊びができる犬は飼い主との間に信頼関係があり、通常それらの社会的なスキルは、人類が犬を家畜化したことによって得られたものと考えられています。
しかし新しい研究によると、ボール遊びをするのは犬だけではありません。
犬の先祖である野生のオオカミも人間のためにボールを持ってくることができます。
親しくない人間のためにボールを持ってくる野生のオオカミ
ストックホルム大学の行動生態学者クリスティーナ・ハンセン・ウィート氏と動物学者のハンス・テムリン氏は、動物の社交性についての研究を行っている最中に、野生のオオカミが偶然見せたある行動に興味を抱きました。
二人はヨーロッパ各地から連れてきた13匹の生まれて間もないオオカミを毎日交代で育て、人間に慣らせていました。(野生のオオカミは人間に慣れていないため小さい頃からの接触が不可欠です)
この研究は元々、動物が他の動物や人間に対してどのように接するのかを知るためのもので、そこには、オオカミの子供が飼いならされた犬と同じような行動をするのかを調べる目的も含まれていました。
オオカミが成長するにつれ研究者は、一部のオオカミが、部屋に投げたボールに反応を示すことに気づきました。
二人は改めて、どれだけのオオカミがボールに興味を示すのかを調べることにしました。
ほとんどのオオカミはボールを無視しましたが、そのうちの3匹だけは興味を示し、時間はかかったものの、ボールを咥えて人間の元に戻ってきました。
実験ではまず研究者がオオカミと一緒に部屋に入り、それからオオカミを残して部屋を出ます。
その後、別の人物(オオカミにとって見知らぬ人)が部屋に入り、隅から3回ボールを投げました。
レミーとエルビスと名付けられたオオカミはそのうちの2回ボールを拾い、スティングと名付けられたオオカミは、3回全てのボールを拾って人間の元に持ってきました。(オオカミには全てミュージシャンにちなんだ名前がつけられています)
ウィート氏は、「最初にオオカミがボールを持ってくるのを見たときは文字通り鳥肌が立った」と述べています。
Snippet: Wolf puppies stun scientists by playing fetch
野生のオオカミの子供が親しくない人間のためにボールを持ってきたこの実験結果は、オオカミが――望むのであれば――人間とも親しくなれる可能性があることを示唆するものです。
過去の似たような研究では、対象の動物が人間と親しくなくても報酬があるならば、命令や遊びに従うことが示されています。
しかし今回のオオカミたちは、見知らぬ人間が投げたボールに反応し、報酬が用意されていなくてもそれを人間の元に持ってきました。
ウィート氏は、これが小さな研究であることは認めながらも、「オオカミには人間の社会的な手がかり(表情や行動、感情など)を読む能力がある」と話しています。
アリゾナ大学のアリゾナ犬認知センターのディレクター、エヴァン・マクリーン氏は、この研究を「本当に賢い研究であり、今までだれもやったことがないのは驚きだ」と述べる一方、オオカミのボール遊びが人間の飼い犬が行うボール遊びと同等のものであるかどうかについては疑問であるとしています。
マクリーン氏は、ボールを咥えたオオカミがそれを人間の元に持ってくるまでに時間がかかっていることに注目し、単にオオカミが動く物体を追いかけただけではないかと指摘しました。
研究結果はCell PressのジャーナルiScienceに掲載されました。
ボールを追いかけるのはわかるけど、それを人間のところに持ってくるのは意外だねー
もっと遊んで欲しいからなのか、元々人間に取り入ろうとする性質があるのか……
オオカミが犬の祖先であるのも納得と言える結果だな
References: Science