メキシコの「アホロートル」と呼ばれるサンショウウオは、生態系の破壊によって生存の危機にさらされています。
この魚ともトカゲとも判断のつかない不思議でキュートな生き物は、生まれた場所や環境によって成長後の姿が変わることで有名です。
ネオテニー、すなわち性的に成熟していながら身体的には未熟であるという、いわば永遠の子供のような姿をしたアホロートルは、メキシコの歴史の中で重要な役割を果たしてきました。
メキシコ人は死を超越と捉えており、それは神話の中の神々にも反映されました。
アホロートル、別名メキシコサンショウウオ(もしくはメキシコサラマンダー)は、アステカ神話の中で「ショロトル」という神として表現されています。
ショロトルは他の神々が世界を創造するためにそれぞれの体をいけにえにした際に、自分だけは助かろうと水の中に逃げました。
アステカの神話では死は超越であり、素晴らしいことであると考えられていたため、死を嫌ったショロトルは罰として、永遠に若い姿のまま水中で生き続けるという責め苦を負うことになりました。
この神話に引用されているように、アホロートルは昔から神秘的な動物と考えられてきました。
この動物の若さは、皮膚を再生できるという能力としても現れています。
最近になってアホロートルの再生能力の研究が進み、それが人間の失われた皮膚や損傷した臓器の再生などにも役立つ可能性があることがわかってきました。
メキシコのソチミルコ湖周辺に生息する固有種であるメキシコサンショウウオは、IUCN(国際自然保護連合)のレッドリストにおいて「近絶滅種」に指定されています。
メキシコではこの愛らしい動物を国を挙げてサポートしようと多くの人たちが活動しています。
アホロートルの再生能力は人間に利益をもたらす可能性がある
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アホロートルを研究している獣医のエリカ・セルビン・ザモラ氏は、傷ついたアルビノのアホロートルを介護した経験を持ちます。
メキシコシティの近郊にあるチャプルペテック動物園の南で発見された、フランキーと名付けられたそのメキシコサンショウウオは、顔の半分が失われていました。
これは、両生類が住むメキシコ市内の水路が汚染されていることが原因です。
ザモラ氏はフランキーの介護を続けていましたが、この種には特別な能力がありました。
それは失われた器官を再生する能力です。
フランキーは2カ月以内に失われていた顔を取り戻すことができました。
この脅威の再生能力はアホロートルの特徴でもあり、メキシコ人たちは古くからこの能力を知っていました。
アホロートルはメキシコ全土で妊娠、虚弱、呼吸器疾患に関連する症状の治療薬として使用されてきた歴史があり、ある修道女のグループは伝統的に、ある種のアホロートルを合法的に繁殖させ薬として利用してきたほどです。
ザモラ氏はアホロートルの再生能力は、事故や戦争、病気などで負傷した人や、手足を失った人にとって利益をもたらす可能性があると述べます。
私はこの15年間アホロートルで悪性腫瘍の例を見たことがありません。細胞や体の一部を再生する能力は、人間にも利益をもたらします。
現在科学者は、アホロートルがどのように再生能力を使い自らを守ってきたのかについて知ろうとしています。
アホロートルが直面している問題
photo by Danielle Griscti Flickr
アホロートルは未成熟の体を持ったサンショウウオであり、全てのサンショウウオが必ずこの形態になるわけではありません。
アホロートルになるか、地上を歩く大きなサンショウウオになるのかを分けるのは環境要因です。
ザモラ氏はサンショウウオが大人になるかどうかは環境によると述べます。
彼らは基本的に環境ストレス要因に基づいて変態を完了するかを決定します。水辺で生きるほうが良いと判断した場合はサンショウウオになりますが、それには大きなストレスがかかります。
サンショウウオが大人になることを選択した場合、身体が成長するまでの間、完全に食べることをやめてしまいます。
そのため捕食者の多い環境では大きなストレス要因となります。
ザモラ氏によると、ほとんどのメキシコサンショウウオは大人にはならず、オタマジャクシとサンショウウオの中間にとどまります。
それは現在の環境に比較的餌が豊富であり、捕食者も少ないことから、あえてサンショウウオに変身する必要がないためと考えられています。
しかし近年状況は変わりつつあり、市内の下水道から流れ込んでくる生活排水や、農業で使用される肥料などによってサンショウウオが住む水域が汚染され始めています。
また過去に食料難を解決するために放たれたコイやティラピアなどの外来魚が増えたことで、サンショウウオをはじめとした両生類の数が減り始めています。
2017年にメキシコ国立自治大学が行ったソチミルコ周辺の運河の水質調査では、非常に深刻な水質汚染が報告されています。
この調査で大学が発見した野生のアホロートルの数はわすが1匹だけでした。
ザモラ氏は、教育や研究、そして地域での活動に一生懸命取り組むことができれば、たとえほんの一部であってもアホロートルを救うことができると話しました。
アホロートルは世界を救うかもしれない動物
現在ほとんどのアホロートルは飼育下にいます。
プエブラ州のチグナウアパンでアホロートルの博物館兼水族館を運営しているヤニン・カルバハル氏は、アホロートルを守っていくことはメキシコのコロンブス以前の歴史とつながると話します。
そしてこの種の持つ能力が人間の健康に与える影響について知り、また彼らの生息地を保全し改善することが重要であると述べます。
カルバハル氏は「無知は大きな問題だ」と話します。
人々は野生からそれらを連れていきペットとして飼ったり販売したりしています。しかしアホロートルを育てるのは簡単なことではありません。
アホロートルはその見た目の可愛さもあり、世界中でペットとして飼われています。
しかし温度管理の難しさから、経験のない人が繁殖させたり飼ったりするのは困難な動物です。
カルバハル氏は、アホロートルを飼うのは合法だが育てるのは難しいとして、安易な飼育をしないよう注意を促しました。
メキシコシティーでアホロートルとその生態系について知るツアーを運営する会社の創設者であるパメラ・バレンシア氏は、アホロートルはメキシコのテーマであると話します。
アホロートルはメキシコのテーマであり、政治、社会、資源の利用、環境教育に関係しています。アホロートルは私たちの都市、国、そしておそらく世界を救うための重要な動物です。
バレンシア氏は、ソチミルコの自然とアホロートルについて観光客が理解できるよう助ける活動をしています。
氏は、アホロートルはメキシコだけでなく世界にとっても重要な動物であると述べ、これを守っていくために環境を汚染することをやめなければならないと強調しました。
生態系の破壊は世界のどの地域でも見られ、気候変動や温暖化がそれに追い打ちをかけています。
メキシコに固有のアホロートルは現在絶滅の危機に瀕していますが、町の人々はこの動物を自分たちのアイデンティティの一つとして受け入れています。
2022年に新しく発行される50ペソの紙幣にはアホロートルがデザインされる予定です。
またメキシコシティを走る2階建てバスには、微笑むアホロートルの絵が描かれています。
この可愛らしく素晴らしい再生能力を持った生き物が地球上からいなくなってしまうのは悲しいことです。
アホロートルの未来は、いかに多くの人がこのキュートな動物に関心を持つかにかかっています。
微笑んでいるみたいでかわいいね~
両生類に萌える日がくるとは……
再生能力もすごいんだよ!もっとみんなに知ってほしいなー!
References:BBC