世界で人気の食材タイヘイヨウサケ 稚魚の放流により遺伝的多様性が低下

自然
(Credit: E.Peter Steenstra/USFWS)

スウェーデンの川を調査しているグループは、タイヘイヨウサケの遺伝的多様性が稚魚の放流によって失われていると報告しています。

タイヘイヨウサケ(アトランティックサーモン)は、北大西洋の海とそこに流れる川に生息する魚で、古くから重要な食材として消費されてきました。

バルト海に面したスウェーデンは、タイヘイヨウサケの主要な産地の一つで、国内を流れる川には、毎年人の手によって育てられた稚魚が放流されています。

 

サケ類は川から海に下り、そこで成長してから再び生まれた川へと戻ってきます。

しかし川にダムが作られて以降、流れがせき止められたり、水質が汚染するなどして、生息地は失われていきました。

現在流通しているタイヘイヨウサケのほとんどは、産卵から漁獲までの全ての段階で人間が関わっていますが、体質的には弱く、環境の変化にも脆弱です。

このようなサケが川に入り込むと、野生の個体との間で遺伝子の交流が起き、次第に適応力に乏しい子孫が生まれてくるようになります。

稚魚の放流は長期的に見た場合、資源の回復ではなく、減少につながる可能性があります。

 

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稚魚の放流は遺伝的多様性を低下させる

 

スウェーデン農業科学大学の生物学者ヨハン・エステルグレン氏らの研究チームは、タイヘイヨウサケの遺伝子の変化を追跡するため、国内の13の川で調査を行いました。

かつてスウェーデンには、野生のサケの生息する川が80以上存在していました。

しかし1950年代頃から始まったダムの建設や、それに伴う生息地の劣化および乱獲により、現在では28にまで減りました。

国は水力発電やその他の人為的影響によって減少した漁獲を補うため、半世紀以上にわたり稚魚の放流を行っており、その数はバルト海全体の約3分の1を占めています。

対象となった13の川は、サケの鱗が古くから保存されており、研究者はそれらのDNAを比較、分析することで、個体群の特徴を特定していきました。

鱗のサンプルは合計1680枚で、このうち893枚が1920年から1963年までのもの、残りの787枚が2010年から2015年に採取されたものです。

 

タイヘイヨウサケの稚魚 (Credit: E. Peter Steenstra/USFWS)

 

分析の結果、5つの川から、養殖されたサケと同じ遺伝子タイプの個体群が見つかりました。

これらの川ではかつて野生の種が生息していましたが、稚魚の放流が始まって以降、遺伝子に変化が現れるようになりました。

一部の個体群のDNAは、全て養殖されたサケに由来していました。

また時代ごとの比較では、現代のサケの遺伝的多様性が、過去の全ての時代のサケよりも一貫して低い状態にあることもわかりました。

 

養殖された魚は環境の変化に弱く、野生の個体と混じると、子孫にその性質が伝わっていきます。

これは最終的に、その川に住むサケの遺伝的多様性を失わせ、未知の病気などに対する適応力の低下を招きます。

遺伝子が似通っている場合、たった一つの脅威によって、一帯のサケ全体が死に絶えるおそれがあります。

エステルグレン氏は、「1950年代から60年代に始まった稚魚の放流はダムの建設がきっかけですが、それ以降科学的な検証は行われていません。私たちの研究は、バルト海における稚魚の放流が、過去100年の間に個体群の均質化をもたらしたことを示しています」と述べ、世界中で行われている同じような放流についても、「長期的に見れば悪影響があるかもしれない」と指摘しています。

 

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サケなどの稚魚の放流は、資源の保護や回復を目的として行われます。

しかし放流後の魚が、野生の種にどのような影響を与えているのかについては、ほとんど関心が持たれていません。

今回の研究結果は、稚魚の放流が、結果的に食料問題をさらに深刻にしてしまう可能性を示唆するものです。

英国スウォンジー大学のサケの専門家であるカルロス・ガルシア・デ・レアニス教授は、「魚の放流は、水不足や生息地の減少、河川の分断化といった問題ではなく、個体数の減少に対処するためのアプローチです。この研究は、“放流が良くて時間の無駄、最悪の場合回復させようとしている個体群に新たな問題をもたらす”という、増えつつある証拠を補強するものです」と述べています。

 

研究結果はProceedings of the Royal Society Bに掲載されました。

 

 

 


 

 

しぐれ
しぐれ

生け簀で養殖されてるサケが逃げ出すケースも、遺伝的多様性の低下につながってるみたい

かなで
かなで

弱い個体だけにならないように、野生のサケも保護していかなきゃいけないね

 

Reference: The Guardian