アマゾンは今、かつてないほどのスピードで燃えています。
アマゾン――といっても便利な通販サイトのことではありません。
ブラジルの広い国土に広がる“地球の肺”とも表現される熱帯雨林のことです。
ブラジルの国立宇宙研究所(INPE)はアマゾンの森林火災を2013年から追跡していて、それによると今年は最も火災による被害面積が大きいことがわかりました。
燃え広がった森林から発生した煙は瞬く間に空を暗く染め上げ、気象観測データは、その煙がブラジルや周辺国だけでなく大西洋を越えてヨーロッパにまで到達しようとしていることを明らかにしました。
今年に入ってブラジルでは、これまでに72,843件の火災が発生していて、その半分以上はアマゾン地域で起こっています。
この比率は昨年比に換算すると80%以上の増加率です。
アマゾンの森林が火災に遭うことは、地球に住む人間や動物たちにとって死活問題となります。
二酸化炭素を吸収し温暖化を止めるアマゾンの森林地帯
地球温暖化による影響が懸念されているなかで、最もその進行を遅らせる能力を持っているのがアマゾンの森林地帯です。
アメリカの国土の約半分の面積を占めるアマゾン地域は、地球で発生した二酸化炭素を吸い込むいわば“地球の肺”であり、そこは数えきれないほどの動植物が生息する命の源でもあります。
しかし今年に入ってからアマゾンでの火災が急激に増加し始め、ソーシャルメディアでは多くの個人がブラジルの街の上空を覆う黒い影についてつぶやいたり写真を投稿したりしています。
ニューヨークタイムズのジャーナリストであるシャノン・シムズ氏のTwitterには、ブラジルのサンパウロ市の上空が黒い煙で覆われている状況が鮮明に写っています。
🌎Just a little alert to the world: the sky randomly turned dark today in São Paulo, and meteorologists believe it’s smoke from the fires burning *thousands* of kilometers away, in Rondônia or Paraguay. Imagine how much has to be burning to create that much smoke(!). SOS🌎 pic.twitter.com/P1DrCzQO6x
— Shannon Sims (@shannongsims) August 20, 2019
シムズ氏によると、気象学者はこの煙の出所を数千kmも離れたアマゾンのジャングルだとしています。
日本の本州よりも長い距離を煙が移動するというのは無理があるような気もしますが、別のデータはこれが現実であることを示しています。
欧州連合の地球観測プログラム「コペルニクス」は定期的に地球環境を調査、モニタリングしていますが、最も最近のデータ(2019年8月20付)によると、アマゾンの中心から大西洋に向かって熱エネルギーが拡散していることがわかりました。
アマゾンの森林火災と煙が拡散している状況を示した観測データ Image:Copernicus Atmosphere Monitoring Service
煙はブラジルだけでなくペルーやボリビア、パラグアイにまで及び、末端の煙に至っては大西洋にまで到達しています。
INPEによるとアマゾンの熱帯雨林は、1分毎に、サッカーグラウンド1.5個分の面積が失われています。
ブラジル大統領の政策と増え続けるアマゾンの森林火災
Photo by Alex Indigo/Flickr
この広範囲に広がるアマゾンの火災はどうして起きたのでしょうか。
一つには気候変動による気温の上昇が挙げられます。
しかしもう一つ決定的な要因とされているのが、今年の1月1日にブラジルの大統領に就任したジャイール・ボルソナーロ氏とその政策です。
ボルソナーロ氏は選挙キャンペーンにおいて、“アマゾンの経済的可能性を探ることによって国内の経済を回復する”という誓約をし、見事当選を果たしました。(ボルソナーロ氏は極右的な政治思想を持ち、その政策は企業寄りであることが知られています)
ボルソナーロ氏の大統領就任後、これまでINPEによって報告されていたアマゾンの環境データは無視されるようになり、ブラジルの環境執行機関はこれまで保全に使われていた予算を大幅に(2300万ドル)削減することを決定しました。
その結果、企業と労働者がアマゾンに入り込むようになりました。
INPEのディレクターだったリカルド・ガウバン氏は今年の6月、アマゾンからの森林破壊を示すデータが1年前と比べて88%も上昇していることを大統領に報告しましたが、ボルソナーロ氏はそれを「嘘」と呼び、数日後ガウバン氏は解雇されてしまいました。
INPEによると、大統領が就任して以降のアマゾンの森林破壊率は今年の5月と6月に入ってから急激に上昇し始めています。
これら一連の出来事から、政府が経済政策として後押しするアマゾンでの開発が森林火災に結びついていることは明白です。
こうしたブラジル(と大統領)の環境を軽視する動きについて、環境活動家やWWF(世界自然保護基金)のような組織は懸念を強めています。
グリーンピースはボルソナーロ氏と彼の政府を「気候バランスへの脅威」と呼び、この政策を続けることは長期的にはブラジル経済にとって“重いコスト”になると警告しました。
アマゾンの熱帯雨林はブラジルだけでなく地球全体に恩恵をもたらしています。
しかしこの先もブラジル政府が経済政策としてアマゾンを利用し続けるならば、気候変動による地球への影響はさらに深刻度を増していくことになります。
国を豊かにするために自国の資源を利用しようとする政治家と、グローバルな視点で警告を発する環境団体……はたしていつの日か、双方の意見が一致を見ることはあるのでしょうか。
References:CNN