接着剤やワイヤーなどの力を借りずに石の自重だけを利用して作られる「ロックバランシング」は、その見た目のインパクトや不思議さから近年注目を集めています。
アメリカでは毎年ロックバランシングの大会が開催されていて、芸術的な作品が見る人を感動させています。
しかしこの遊びは自然にある多くの石を選別する必要があるため、作成者は知らずに石の周囲に生息している動植物の暮らしに影響を与えています。
SNSの普及とともに上昇しているロックバランシングの人気に対し自然保護主義者は、人々にむやみに石をどかしたり環境を乱したりしないよう求めています。
石や岩の移動はそこに住む生き物たちの生態系を壊してしまう
Image by Lara Gonzalo from Pixabay
オーストラリアの生物多様性の研究機関であるアーサー・ライラ環境研究所(Arthur Rylah Institute for Environmental Research)の生態学者ニック・クレマン氏は、ロックバランシングは世界的な現象であり、岩があるところであればどこでも起きていると述べます。
しかし最近は絶滅が危惧されている生き物の生息地内でも見られるようになってきていると続け、ロックバランシングの流行に危機感を募らせました。
クレマン氏のみならず、ロックバランシングがもたらす環境への影響については、これまで多くの自然保護主義者や科学者が指摘してきました。
出来た作品は選りすぐられた石がきれいに積み重なった素晴らしい芸術作品かもしれませんが、その制作の過程では、数えきれないほどの石が掘り出されては無遠慮に捨てられています。
石はある生き物にとっては不可欠な環境であるため、ロックバランシングは潜在的に種を危険にさらす行為となるおそれがあります。
クレマン氏は「そこでは動物が生きており、それに対する妨害は動物を追いやることを意味する」と述べ、“石を取り除く”という人間にとっては単純な行為が動物を混乱させ、生息地を放棄させることにつながると警告しました。
石を取り除くことは土壌にも影響を与えます。
石や岩の除去によって露出した土壌は水や雨によって洗い流され、植物や生き物は住む場所を失います。
一部のロックバランシングのプレイヤーは、使用した石を元の場所に戻せば環境への負担は少なくなると主張しています。
しかし米国の国立公園などは“それに依存している動植物に害をもたらす可能性があること”を理由に、石や岩の移動を禁止しています。
長年にわたって川やそこに住む野生生物の保護活動を行っているアメリカの団体Ausable River Associationは、「岩の積み上げは河川や生態系に有害な場合がある」と述べ、芸術や個人的な喜びのために岩を積み重ねることは、木に落書きを刻むのと同じことだと指摘しています。
同グループはウェブサイトの中で、川から石や岩が移動すると魚などの水生生物の生態系が変化すると述べ、産み付けた卵が流れたり稚魚が捕食者に食べられたりするといった具体的な事例を挙げています。
また川の石に付着した藻や苔が水生生物の食べ物であると説明し、それを取り除くことは生態系の破壊につながると警告しました。
環境ボランティアグループBlue Planet Societyの創設者ジョン・アワーストン氏は、「人々は環境の教育を受けていないため、自分がどの場所にいるのかも、またその場所が野生生物にとってどれだけ重要なのかもわからない」と述べています。
アワーストン氏はBBCの取材のなかで、クリエイティビティは素晴らしいことだと認めながらも、「環境における第一のルールは痕跡を残さないことだ」として、ロックバランシングを行う人たちに行動を見直すよう求めています。
山道にあるロックバランシングはハイカーを誤解させて遭難の原因になることもあるんだって
作る人は自然を大事にする気持ちを忘れないでほしい……
References: ScienceAlert