2020年の7月下旬、日本の会社が保有している貨物船「WAKASHIO(わかしお)」がインド洋の島国モーリシャスの沖合で座礁し、大量の重油が海に流出しました。
流れ出た1000トン以上もの油は、周辺のサンゴ礁やマングローブの生息する湿地帯に広がり、海洋生態系に大きなダメージを与えています。
現在、現地のボランティアを始め、各国の専門家が油を回収するための懸命な努力を続けています。
国際タンカー船主汚染防止連盟(ITOPF)によると、原油の流出事故の数は近年減少しています。
事故は1970年代には年間平均で80回起きていましたが、ここ10年ではわずか6回にまで減っています。
過去の大規模な流出事故の大半は1978年から1991年までの間に起きており、2010年以降の事故は全体の4%にしか過ぎません。
ITOPFは事故の減少傾向について、厳しい規制と安全基準によるものだとしています。
原油の流出が生態系に与える影響
モーリシャスで流出した油は1000トンを超えるとみられていますが、過去の大きな事故と比較するとわずかな量です。
これまでで最大の流出は、1991年の湾岸戦争時における800万バレルです。
この原油は、イラク軍がアメリカの侵攻を阻止するために、意図的にペルシャ湾に流したものです。(流出量については諸説あります)
また近年で最大の事故は、2010年にアメリカの石油掘削施設「ディープウォーター・ホライズン」で起きたもので、490万バレルの原油がメキシコ湾に流出しました。
ディープウォーター・ホライズンの事故で流れ出た原油 (Green Fire Productions/Flickr)
しかし原油の生態系への影響は流出量に左右されません。
今回の事故は、国際的に重要な湿地帯である自然保護区「ブルー・ベイ・マリーン・パーク」の近くで起きました。
周辺一帯は、サンゴ礁、海草、マングローブなどが広がる生物多様性に富んだ海域で、ここでしか見られない動植物が数多く生息しています。
原油は海洋哺乳類の体毛や海鳥の羽毛に付着すると体温の調節機能を奪い、動物を死に追いやります。
また毒性も強いため、餌などともに体内に入り込むと臓器が正常に働かなくなります。
グリーンピースの科学者であるデイビッド・サンティロ氏は、「事故が海洋生物の生息地の近くで起きた場合、比較的少量の油であっても大きな影響を与える可能性がある」と述べています。
近年大きな事故の数は減っていますが、ITOPFのデータは7トン以下の流出事故を含んでおらず、また石油を運ぶ全ての船を網羅しているわけでもありません。
これはニュースにならない事故があちこちで起きていることを意味します。
グリーンピースのタル・ハリス氏は、「世界には破壊的な流出が数多くある」と述べ、たとえ一回の流出でも、生態系にとっては多すぎると強調しています。
モーリシャスの海には1700種類の生き物がいるとか……
原油は水中や海底にも移動するから生態系への影響が心配だね
References: BBC