助けはいらない。南極単独横断に成功した冒険家の緻密な計画

自然

12月26日、アメリカの冒険家コリン・オブラディ氏(33)が南極大陸を単独、無支援で踏破しました。

クロスカントリースキーを履き、荷物を載せたソリを引いての踏破は史上初めてのことで世界中から賞賛の声が上がっています。

どうしてそんな寒いところにいくのかな?なんて思ってしまいますが、彼の偉業はただの思い付きなどではなく、周到な準備のもとに行われた冒険でした。

 

これまで何人もの冒険家、探検家が単独踏破を目指して命を失いました。

チームで臨むときでさえ危険なのに、どうしてオブラディ氏の無謀ともいえる挑戦は成功したのでしょうか。

 

そこには緻密で計算された努力とサポートがありました。

 

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未知の世界と未知の条件

 

これまで南極を踏破した冒険家はチームであるか、別の動力を利用したものでした。

2017年には、単独での踏破を試みたイギリスの探検家がゴール間近でリタイアすることになりました。

また2016年にはチャリティーのために単独横断に挑んでいた元イギリス軍将校のヘンリー・ワースリー氏がゴール目前で帰らぬ人となりました。

 


 

こうした単独横断を阻む要因には天候、体力、食料などがあげられます。

またサポートチームが同行しないことで、全ての問題に一人で対応しなければならないことも難易度に拍車をかけています。

そんな中なぜ、今回のオブラディ氏の偉業が達成されたのでしょうか。

 

彼は1年をかけて周到な準備を行いました。

そこには彼の妻、妹、継父が協力し、行程中に必要なカロリー計算から自然の猛威に耐えうる身体作りまで完璧に計画されたものでした。

 

 

準備の1年

 

Photo: Colin O’Brady

 

オブラディ氏は1年をかけて南極横断のための準備を行っています。

体力の面では、ソリを引くために強靭な筋肉が必要でした。

また心臓も同じく過酷な環境に耐えるものにしなければなりません。

オレゴン州ポートランドの体育館に毎日通ったオブラディ氏は、筋力トレーニングに始まり、サイクリング、ハイキング、ランニングを黙々とこなしました。

 

そして食料についても考える必要がありました。

これまでの南極単独横断に失敗してきた冒険家や探検家が、自分の消費体力とカロリー摂取のバランスがとれていないことに気づいたオブラディ氏は、オリジナルの栄養バーを作成しました。

 

オブラディ氏は言います。

 

彼らの失敗は栄養を完全に理解していないことからきていると思う。だからそれを最適化するのが重要なんだ。

 

彼はStandard Processという食品サプリメントの会社と協力して、チョコレート味の栄養バーを制作しました。

南極横断で1日に消費するカロリーは約8000カロリー。

彼は1本の栄養バーのカロリーが1150カロリーになるよう調整し、それを行程中に1日4本食べることに決めました。

実際は消費するカロリー分だけでは足りないので、1日10000カロリーを満たすために、メニューには粉末スープや乾燥した食品も加えました。

 

またその他にソリの問題があります。

今回の南極大陸横断の距離は932マイル――約1500kmです。

その間の食料や衣服の替えなどを全て自分1人で持っていかなくてはなりません。

荷物の内訳は、1日あたり5リットルの水を溶かすのに必要な55ポンドの燃料、衣類その他で75ポンド、そして食料と合わせて合計375ポンド――約170㎏です。

 


 

この荷物をソリで引いて、1500kmを一人で歩いていくのを考えると気が滅入ってしまいますね。

 

しかしこの単独南極踏破に挑んだのは彼だけではありませんでした。

それは2016年に同じチャレンジをして亡くなったヘンリー・ワースリ―氏の友人である1人の陸軍大尉でした。

 

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ロス棚氷への競争

 

Photo: Colin O’Brady

 

亡くなったワースリ―氏の友人だったルイス・ラッド氏(49)は、友人がなしえなかった記録が冒険のインスピレーションになったと語ります。

これまでにいくつもの極地を探検してきたラッド氏もまた、周到な準備をし、今回の冒険へと臨みました。

 

また今回メディアは二人が競争をしているように書きましたが、ラッド氏によるとオブラディ氏が自分と同じことをしようとしているのを知ったのは、イギリスを発って南極に向かった後だったといいます。

 

私はレースに巻き込まれたくはありませんでした。重要なことは、私が旅をし、ヘンリーの家紋とともに旗を掲げたことです。

 

ラッド氏はオブラディ氏から2日遅れて大陸横断を完了しました。

そして最終地点で、亡くなったワースリ―氏の家紋と旗を掲げたといいます。

 

おそらく彼はオブラディ氏との競争のことは頭になかったのだと思います。

亡き友人のためにその意思を継ぐこと、それだけがラッド氏の叶えたかったものなのではないでしょうか。

 

旅の途中南極観測基地を横切ることになったそうですが、単独横断のため支援を受けることはできず、少しの会話だけをして通り過ぎたといいます。

とどまりたい誘惑を抑えるため意図的にそこを離れたラッド氏の、友人を思う力に感動してしまいますね。

 

 

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オブラディ氏がラッド氏のテントを訪問

 


 

オブラディ氏はラッド氏の到着を待って二人でユニオン・グレーシャー・キャンプ(南極で唯一の季節限定キャンプ地)に向かうそうです。

(オブラディ氏は54日、ラッド氏は56日で1500kmを単独無支援で横断しました)

 


 

この二人の冒険家が成し遂げた偉業は人々に勇気を与えてくれました。

もしここから何かを学べるのだとしたら、準備をしっかりしておく、ということだと思います。

 

南極に行く予定のある人はぜひ、二人を参考にしていただけたらと思います。

 

 

References:mnn,guardian