肉の消費を減らすことは環境保護につながります。
特に牛肉の生産には大量の水と土地が必要で、世界全体の畜産業と水産業が排出する温室効果ガスは他業種を含めた全体の約58%にも及びます。
しかし肉食はそう簡単にやめられるものではなく、環境問題に関心のある人でさえなかなか実行に移すことができないのも事実です。
そんな環境問題と食肉との間にあるジレンマに対し、英国ケンブリッジ大学の研究者たちは、問題を一気に解決するかもしれない方法を見つけ出しています。
この方法が浸透すれば、肉食の人は環境保護のために食事の好みを変えなくてもよくなります。
菜食メニューを追加することは環境保護につながる
英国ケンブリッジ大学の3つのカフェテリアで肉の消費を減らすためのある実験が行われました。
そこでは94,644食の匿名化された個人の食事データを用い、1年間で彼らがどんな種類の食事をとっていたのかを追跡調査します。
実験ではカフェテリアの肉食のメニューはそのままに、ベジタリアン向けの(肉の入っていない)メニューの数を増やしました。
研究者たちは、菜食メニューの増加が注文行動にどのような影響を与えるのかを知ろうとしています。
1年に及ぶ追跡調査は意外な結果をもたらしました。
メニューの中の菜食の割合を従来の25%から50%に増やすと――食品全体の売り上げに影響を与えることなく――菜食メニューの注文数が40~80%増加しました。
この結果は、単純な方法で自発的な菜食主義者を増やせることを明らかにしています。
肉食の選択肢を排除せず単に菜食のメニューを増やすことは、環境保護のために肉食をやめるよう声高に訴えるよりも遥かに高い効果をもたらします。
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研究者の一人でケンブリッジ大学の環境保護論者であるエマ・ガーネット氏は、肉や魚などのメニューにベジタリアン向けの選択肢を加えることは結果的に温室効果ガスを削減することにつながると述べます。
より植物ベースな食事への移行は食物の環境フットプリント(※)を削減する最も効果的な方法の一つです。
(※食事やその生産が地球環境に与える負荷を示した値のこと)
研究結果は菜食メニューを増やしても全体の売り上げが以前とそれほど変わらないことも示しました。
さらに菜食メニューを選んだ人がその後の食事で多くの肉をとる、いわゆる“リバウンド効果”も確認されていません。
これらの結果は、メニューの提供者が肉食メニューを外さなくても環境保護に貢献できる可能性を示唆しています。
研究チームは今後、メニューの表示の順番――たとえば肉食メニューが一番上かどうかなど――を変えることや、肉と野菜の価格の変更などが消費にどう影響を及ぼすのかについて明らかにする方針です。
この“メニューに菜食の選択肢を増やす”というシンプルな方法は、肉食を嗜好する人を排除しないところがなにより秀逸といえます。
環境論者はとかく肉食の人に対して攻撃的であるきらいがあります。
誰しも自分の好きなものを否定されれば気分のよいものではありません。
しかし今回の方法なら、肉食の人も元々菜食だった人も、そして食事の提供側も誰一人損しません。
ケンブリッジ大学の心理学者テレサ・マルトー氏は、環境問題に対する教育は重要だと認める一方で、食事の変更を強要したり肉に対し税を課したりするのは得策ではないと述べています。
食肉税は一般的であるとは言えません。それよりも利用可能な選択肢の範囲を変更することの方が、より人々に受け入れられ、食事の健康と持続可能性に影響を与える強力な方法となります。
肉食を否定せずに環境問題を解決に導く今回の研究は、世界の食事処のメニューを劇的に変える可能性があります。
肉食主義の人は、行きつけのお店が菜食メニューを増やしたとしてもそっとしておきましょう。
肉食、菜食双方が認め合うだけで、地球の環境は今よりもっと良くなっていきます。
References:University of Cambridge,PNAS