モダンウォーフェアの敵国はなぜ架空の名前なのか?グローバル化するゲームと仮想敵としての中東の存在

ゲーム
© 2018-2019 Activision Publishing, Inc.

ハードの性能が上昇することで、開発者はゲームをより写実的に表現できるようになりました。

写真と見間違うほどの美麗なグラフィックは、それだけでゲームをしている喜びを感じさせるものです。

見た目が現実に近づいていく一方で「物語」の方はというと、なかなか真実に迫れない部分もあります。

多くのゲームにおいて、主人公に倒される敵は、“架空の国や組織”に所属しています。

現代社会は複雑になりすぎているため、政治や国の問題をゲームという娯楽に絡めて語るのには少なくないリスクが存在しています。

 

ゲーム内での現実的な表現について様々な意見がある中、タイトルからして“現代的”という形容詞がついている人気FPSシリーズ「Call of Duty: Modern Warfare (コールオブデューティ・モダンウォーフェア)」の発売が迫っています。

このシリーズは一貫して、現代的な戦争にスポットを当ててきました。

そこにはイギリスやアメリカといった現実の国や組織が登場します。

しかしシリーズにおいて敵となる組織は、主人公側に比べると、幾分グレーがかった存在であることが常でした。

グラフィックや処理能力の向上によりテンポのよいアクションゲームとしての地位を向上させてきたシリーズは、今作でどのように“現代的”であろうとしているのでしょうか。

 

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現実に存在する国と中東を連想させる架空の国との戦い

 

架空の国出身のキャラクター「ファラ・カリム」 © 2018-2019 Activision Publishing, Inc.

 

今作のモダンウォーフェアには、昨今の男女平等を支持する動きを踏まえてか、女性のプレイアブルキャラクターが登場します。

ファラ・カリム(Farah Karim)という名の女性は、故郷の村を化学兵器による攻撃で奪われ、父親をロシア兵に殺害されたことからその復讐のために戦うことを決意します。

彼女の故郷は「ウルジクスタン」という架空の国です。

ウルジクスタンは大国同士の代理戦争が行われる地であり、主人公たちはテロリストの情報を得るために現地に向かうことになります。

この名前はほとんどの人に、中央アジアや中東の国をイメージさせます。(名前の元となったであろうウズベキスタンは、旧ソビエト連邦の国の一つでロシアと中東に挟まれた場所にあります)

主人公側の所属がイギリスという明確に存在している国であるのに対し、ファラの故郷は“中東っぽい”名前を持った架空の国です。

ロシアだけが唯一敵国であることを連想させますが、なぜこの中東らしき国にだけあいまいな名前が付けられているのでしょうか。

 

開発会社であるInfinity Wardのシングルプレイデザインディレクターであるジェイコブ・ミンコフ氏は、架空の国が登場する背景には複雑な理由があるとしています。

ミンコフ氏はゲームメディアPolygonとのインタビューの中で、現代のテロリストたちがどういう目的を持って活動しているのかについて言及することから始めました。

 

彼ら(テロリスト)は相手国が自分たちの国に干渉していると感じているため攻撃をします。彼らは脅威を感じているので、相手国を攻撃することで自分たちの土地から出て行ってほしいと思っています。

 

実際今起きている悲惨なテロは、元をたどればアメリカを筆頭とした欧米諸国が中東の政治や経済に関与したことから発生しています。

中東の虐げられた人たちが、問題を解決する手段に暴力を選ぶのは仕方のない一面もあります。

しかしそれだけでは、敵国の名前が架空である理由にはなりません。

 

ゲーム内でテロリストの攻撃に遭うのはイギリスという現実に存在する国であり、登場人物もイギリスの軍隊に所属しているという設定です。

イギリス軍の戦う相手が架空の存在の場合、従来であれば、どこが絵空事のような、あるいは拍子抜けするような描写が見られたはずです。

それはプレイヤーに、このゲームが現実ではなく、あくまでエンターテインメントであるという認識を抱かせます。

しかしモダンウォーフェアは、敵を架空の存在としながらも、現在の中東と結びつけることでリアリティを表現しました。

これは製作者だけでなく、プレイする多くの人たちが、中東地域の国々を無意識的に仮想敵とみなしていることを表しています。

 

大人気キャラ「キャプテン・プライス」も今作には登場 © 2018-2019 Activision Publishing, Inc.

 

この点についてミンコフ氏は、テロリストの多くが出身地とする中東の国々を具体的に描写するのは、いろいろな部分でリスクが伴う、と答えています。

 

政治的に非常に複雑です。テロリストが攻撃する国(つまり主人公側)については多くを語ることができますが、テロリストを知るために中東で多くの時間を過ごしたり、彼らのリーダーと関わったりすることで、現実世界の政治に巻き込まれたくはありませんでした。

 

ミンコフ氏は、敵国が架空であるのは、テロリストの出身国について敬意を持って語るだけの知識がなく、開発者としては、感情的でインパクトのある物語を最良の形でゲームに持ち込むことを第一にしているからだ、としています。

また同氏は、中東の多くの国には多数の政党が存在し、それらについて正確にリサーチすることは事実上不可能であり、また仮にそれができたとしても、複雑な地政学的環境について語る必要が出てきてしまうと述べています。

 

……なるほど。

確かにゲームのリアリティを追求するために、自らの命を危険にさらしてまでテロリストの取材をする必要はありません。

おそらくほとんどのプレイヤーにとって、自分の操作するキャラクターが誰であり、またどんな組織を相手に戦うのかはそれほど重要なことではないでしょう。

少なくとも、倒す相手が中東の敵ならば特に考える必要もない、というのが大方のプレイヤーの共通認識です。

しかしゲームは今や数十億人がプレイする一大産業であり、世界中の国や地域で親しまれています。

 

 

非常に写実的なモダンウォーフェアは、ゲームが現実の延長線上にあるかのような錯覚をプレイヤーに与えます。

もしプレイヤーの出身地が欧米諸国ではなく、中東やその周辺地域だった場合、彼らはこのリアルなゲームをただの娯楽として受け入れることができるのでしょうか。

自分たちの故郷と思われる国が、先進国の兵士たちによって蹂躙されていくのを見るのは、彼らにとって心躍る体験になるのでしょうか。

 

ミンコフ氏は、ハードの能力や容量が爆発的に増加したことで出てくるこうした表現の問題について、「テロリストたちの苦悩については一定の理解をしているが、しかしそれでも全てを知ることができない以上、彼らの国を架空の存在にする必要があった」と述べています。

また今回登場するファラの視点を通じて、「彼女の故郷(つまり現実の中東地域)とそこに住む人たちの苦悩についてプレイヤーが考え、共感することを望んでいる」とも語っています。

 

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どこの国や地域の人でも納得できるゲーム描写へ

 

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ハードの表現能力が上がったことで、現代を舞台にしたゲームは、視覚的な部分だけでなく物語についても適当なウソをつくことができなくなりつつあります。

モダンウォーフェアは明らかに、ハリウッド的な“善と悪”の構図でできたアクションゲームです。

このようなジャンルは、主人公の活躍のために悪役が存在します。

日本を含む多くの欧米諸国の開発者やプレイヤーは、勧善懲悪型のハリウッド的物語に精通し過ぎています。

これは敵側として描写され続けてきた地域の人たちの、ゲームの表舞台への登場機会を奪うことにつながります。

ゲームという娯楽においてでさえ敵国をぼかさなければならない現実と、それについて特に疑問を抱かない人たちの存在は、未来のゲーム業界にとって論争の種になる可能性があります。

 

ゲームという何でもありで想像力をぶつけることのできる魅力的なキャンパスを、一方的な見方で窮屈にしてしまう必要はありません。

現実の中東の国をゲームに登場させることが、最善のアイデアなのかはわかりません。

しかし主人公の属する国だけが実名でゲームに登場するという状況は、どこかいびつで不穏で不平等な気がします。

 


 

ミンコフ氏は今作の物語がプレイヤーにとって素晴らしい体験になることを望んでいます。

最高の映像と設定そしてアクションで綴られるモダンウォーフェアは、ますますグローバル化するゲーム業界の新しい道筋を示す分水嶺となるのでしょうか。

 

「コールオブデューティ・モダンウォーフェア」は2019年10月25日に、PlayStation4、XboxOne、PCを対象に発売予定です。

 

 

Reference: Polygon