途絶えた血を再発見 ニューファンドランドの先住民族「ベオスック」

歴史
(Shanawdithit/Public Domain/Wikimedia Commons)

カナダのニューファンドランド島の先住民ベオスック族は、1829年に亡くなった女性を最後に絶滅したと考えられています。

ヨーロッパの入植者による迫害や、同じ先住民であるミクマク族などに取り入れられる形で、オリジナルのベオスック人は地上から姿を消しました。

しかし最近になって行われたDNA調査は、ベオスックの血が今も脈々と受け継がれている可能性を示唆しました。

 

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現代に受け継がれているベオスックの血

 

1829年6月6日、ベオスックの最後の女性とされる「シャナウディシト (Shanawdithit)」は結核のために亡くなりました。

彼女は死の数カ月前、ベオスックに関する研究を行っていたニューファンドランドの探検家ウィリアム・コーマック(William Cormack)に、現在の一族の状況について語っています。

そこでは、20年前と比べ一族の人数が減ったことや、結核の蔓延によって自分の知るベオスック族が12人しか残っていないことなどが伝えられました。

当時結核は知られておらず、治療法はありませんでした。

このエピソードはベオスック族が途絶えたことの証拠として語られるものですが、ニューファンドランドで暮らすもう一つの先住民ミクマク族にとっては、侵略者側の一方的な視点です。

 

シャナウディシトがコーマックに書いて見せた絵のうちの一つ (Public Domain/Wikimedia Commons)

 

ニューファンドランドメモリアル大学の生物学者であるスティーブ・カー氏は、口承によって歴史を語り継いでいくミクマク族との接触を続けるなかで、ベオスックの血が現代にも続いている可能性に思い至りました。

ミクマク族のコミュニティの援助を受けたカー氏は、シャナウディシトの叔父と叔母とされる人物の頭蓋骨からDNAサンプルを採取し、それを遺伝子データベースと照らし合わせました。

その結果、シャナウディシトの叔父と遺伝的に類似している人物が、米国テネシー州に住んでいることがわかりました。

この人物は自分の先祖が先住民族であることを知りません。

カー氏は、「誰かのDNA配列を入手し類似点を数えることは簡単だが、血のつながりのパターンを再構築するのは難しい」と述べ、使用したデータが少量であることを認めつつも、今後さらに多くのサンプルを使って、ベオスックの血が続いていることを証明したいと話しています。

 

分析に使われた頭蓋骨は、1850年代にエディンバラ大学に送られた後スコットランド博物館に保管されてきましたが、今回の調査に協力したコミュニティの首長であるミセル・ジョー(Mi’sel Joe)氏の働きかけによって、今年の3月にようやく故郷に返還されました。

 

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ヨーロッパ人と先住民の歴史観の違い

 

この発見は、ベオスックについて書かれた歴史書を修正するものですが、ミクマクの人たちにとっては驚くほどのことではありません。

カー氏に協力したミセル・ジョー首長は、「ミクマクとベオスックには常につながりや友好関係があった」と述べ、人々の先住民に対する認識は、真実とは異なっていると指摘しました。

 

ジョー首長は、土地の所有権をめぐる裁判所でのやりとりを振り返っています。

裁判官はミクマクのニューファンドランドへの入植が1700年代だったと決めつけました。

しかし口承では、当時ニューファンドランドにやってきたイギリス人が、ミクマクの人たちに道案内を求めたという歴史が残っています。

ヨーロッパの侵略者がやってきたとき、ミクマクは既にこの地に定着していました。

ジョー首長は、「学会は何年ものあいだ先住民の口承の歴史を無視してきた」と述べ、また「学者を説得するのは難しく、彼らはどんな情報を提供しても考えを変えない」と付け加えています。

 

ジョー首長とコミュニティは、カー氏の研究に引き続き協力していきたいとしています。

 


 

 

しぐれ
しぐれ

入植者と先住民のどっちが正しいかはわからないけど、一方的な見方はよくないよね

ふうか
ふうか

真実とはかけ離れて知られている歴史がたくさんあるのだろうな

 

References: The Guardian