スパイスを使った代表的な料理であるカレーは、今では簡単に家庭で作ることができます。
しかし輸送手段が発達していなかった時代、香辛料を手に入れるのは、わすがな人々にだけ許された特権であり、カレーは近代に入るまで限られた地域でしか食べることのできない料理でした。
カレーと香辛料に関する古い記述は、インドのほか、中国や古代ローマにわすがに残されているだけで、他の地域で食べられていたかどうかはよくわかっていません。
今回、ベトナムの遺跡を調査していたグループが出土した遺物の分析を行い、そこに複数の香辛料の残骸を発見しました。
残骸は1世紀頃のものと推定され、研究者はこれを、カレーと香辛料が2000年前から各地に広がっていた証拠だと考えています。
カレーのスパイスは2000年前から世界各地に広がっていた
オーストラリアとベトナムの研究者チームは、ベトナム南部にあるオケオ遺跡から出土した砥石や石臼を調べ、その表面から植物の微小な残骸を発見しました。
これまで世界の遺跡で発見されてきたスパイスとみられる残骸は、そのほとんどが保存状態が悪く、考古学的文脈において価値のあるものは限られてきました。
しかしオケオ遺跡で見つかったものは比較的良質で、チームはデンプン粒分析と呼ばれる手法を使って植物の種類を特定していきました。
デンプン粒は植物の細胞内にみられる小さな構造で長期間保存されます。
これを分析することで、その植物がどのように使われたのかをはじめ、栽培方法や環境条件など様々なデータを得ることができます。
オケオ遺跡で出土した砥石の一つ。複数の香辛料の残骸が付着していた (Credit: Khanh Trung Kien Nguyen)
分析は出土した40個の砥石を対象に行われ、そのうちの12個から、ターメリック、ショウガ、フィンガールート、ガランガル、チョウジ、ナツメグ、シナモンなど複数の香辛料が見つかりました。
またチームは道具と出土した場所の年代を調べるため、周囲にあった木炭と木材のサンプルを使って年代測定も行いました。
結果、この地域は1世紀から8世紀の間に栄えていたことが判明し、香辛料の一部は、西暦207年から326年までの間に使われていたことがわかりました。
これらの情報は、当時の人々が、香辛料のための道具を作りそれを利用していたことを表しています。
オセオ遺跡で見つかった香辛料の多くは、別の地域でしか入手できないもので、インドの他、北は中国、西はシリアやエジプト、さらにはシチリア島由来のものもありました。
香辛料は歴史的に常に交易の中心品目であり、輸送手段が発達するまでは非常に高値で取引されてきました。
分析結果は、ヨーロッパの商人が香辛料貿易に乗り出した15世紀よりはるか以前に、ベトナムのこの地域に、様々なスパイスが入っていたことを示唆しています。
Science Advancesに掲載された研究の著者の一人で、オーストラリア国立大学の考古学者であるワン・ウェイウェイ氏は、「私たちの研究は、スパイスが約2000年前から、世界的な貿易ネットワークで交換されていた貴重な商品であったことを示しています。これはインド以外にも興味深いカレーの歴史があり、スパイスが広範囲にわたって切望されていたことを証明しています」と述べています。
今回の研究は限定した範囲で行われ、微小な植物の残骸に主な焦点を当てていました。
チームは今後、過去に発掘された保存状態の良い植物の種子を分析し、新たなスパイスの特定や、貿易がどのように行われたのかなどについてさらに研究を進める予定です。
見つかったスパイスの多くは、現代のベトナムのカレーでも使われてるんだって
良いレシピは年月がたっても色褪せないということだな
Reference: The Conversation