レオナルド・ダ・ヴィンチの有名な絵画「モナリザ」は、その美しさと神秘性から作品についての様々な謎が語り継がれてきました。
その中でも有名なものが「モナリザ効果」とよばれるもので、これはモナリザの視線が、見る人がどこにいようともこちらに向いているという現象のことです。
実際モナリザを直視してみると吸い込まれそうな感覚に陥ると同時に、そこから逃れられなくなりそうななんとも言えない迫力のようなものがあります。
長らく信じられてきたモナリザ効果ですが、最近の研究によるとそれはただの錯覚です。
モナリザはこちらを見ていなかった
ドイツのビーレフェルト大学の2人の研究者は、モナリザはこちらを見ているのではなく、見ている人の右肩上方に視線を向けていることを突き止めました。
眼球運動と注意力についての専門家であるGernot Horstmann氏と、彼の研究助手であるSebastian Loth氏は実験のために24人の参加者を集めました。
参加者はスクリーンに表示されたモナリザを見ることになりますが、彼らの視線はスクリーンの間に設置された定規によって固定されます。
参加者は画面に対して常に水平を保つ一方、画面のモナリザは縮尺を変えたり、左右に移動させたり、また目や鼻の部分をクローズアップさせたりするなどの変化が加えられました。
そのうえで参加者に、モナリザの視線がこちらに向いていたのかどうかを確認することにしました。
2人の研究者は、データを少しずつ変えながら2,000以上の測定値を収集しました。
その結果モナリザはこちらを見ているのではなく、見ている者の右上15.4度あたりを見ていることが判明しました。
モナリザ効果と呼ばれる現象については、モナリザだけではなく他の絵画や芸術作品、写真などにもみられるものです。
それは対象の視角が左右5度未満であることが条件の一つとされています。
これは、こちらが相手を見る角度ではなく、“向こうが”こちらをどの角度で見ているのかという意味です。
言い換えれば、相手の視線の内側に入ることで誰しもが、“向こうがこちらを見ている”と勘違いするということです。
今回の研究結果は、モナリザ効果の名前の由来となったモナリザそのものがこちらを見ていないことを明らかにしました。
ではなぜ絵画を鑑賞した人の多くが、モナリザが自分を見つめていると感じてしまうのでしょうか。
人間は錯覚をする生き物
Horstmann氏はこの現象は、人間が常に他人からどう見られているかを気にしていることが原因だと話します。
Photo: CITEC/Bielefeld University
モナリザ効果は他の人の注目の的になりたいという強い願望を示しています。たとえあなたが相手を知らなくても起こることなのです。
気になる相手と目があって舞い上がってしまったような経験は誰しも持っているものですが、それはこちらがそのように思っているだけだった、という可能性が高いということです。(人間とはなんとポジティブなのでしょう!)
Horstmann氏は、モナリザにはモナリザ効果が認められないとしながらも、効果そのものの否定には至らないと述べています。
つまり対象の視角5度以内にこちらがいれば、向こうがこちらを見ているように感じる可能性が常にあります。
相手がこちらを見ているように感じるのは、ほとんどの場合錯覚です。
……しかし人はとかく都合のいい生き物です。
ですからもし視線に対し衝動的な行動に移ろうとしている自分に気づいたならば、このモナリザ効果のことを思い出すべきです。
さもなければ大きな問題に発展してしまうかもしれません――相手が絵画じゃなければなおのこと。
研究結果からモナリザがこちらを見ていないことが判明しました。
といってもやはりずっと見ていると視線を感じてしまうのはただの錯覚なのか、それともダ・ヴィンチの腕のなせる業なのか……いずれにしても不思議な絵であることにかわりはないようです。
Reference:sciencealert