ポンペイ遺跡で発見されたエロティックなフレスコ画には隠された意味があった

歴史

先日イタリアのポンペイ遺跡から、エロティックなフレスコ画が発見されました。

エロティックという言葉に惹きつけられそうになりますが、一見するとそうでもないような、というよりなぜこの組み合わせなの?と首をかしげてしまうこの絵(下の画像)には、実はいろいろな意味と歴史が含まれていました。

 

発見されたフレスコ画 Image:Pompeii – Parco Archeologico

 

裸の女性の膝元にどういうわけか白鳥がいますが、これは一体どんなシチュエーションなのでしょうか?

ただの落書きなのか、それとも絵描きの修行時代の作品なのか、はたまた深淵な意味が込められているのか――意外にも、そこには古代ギリシアの神々が大きく関係していました。

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ふうか
ふうか

無防備な女性を襲うなど卑怯ではないか!この白鳥は私が成敗する!

しぐれ
しぐれ

だ、だめだってば―!壁に傷でもつけたら怒られちゃうからねー!

せつな
せつな

……なるほど、たまにはこういうせくしぃ絵もいいかもしれない……

 

ポンペイ――一夜にして灰に埋もれた街

 

ポンペイ遺跡

 

まずはこのフレスコ画が発見された古代都市ポンペイについて簡単にみていきましょう。

 

ポンペイはイタリア、ナポリ近郊にあった都市で海に近かったため交易の中継地点としておおいに栄えました。

しかし西暦79年8月24日、ナポリから東へ延びるヴェスビオ火山の噴火によって、一夜にして灰の中に埋もれてしまいます。時速100kmを超える速さの火砕流に市民は逃げまどい、当時2万人ほどいた人口のうち2000人以上が犠牲になったといわれています。

街が火山灰に飲み込まれた後は、1000年以上もその存在は忘れられていました。

しかし1700年代に入り、本格的な発掘調査がなされるようになり、そこから発見された美術品や今回の発見にあったようなフレスコ画などの保存状態の良さに、考古学者たちは目を輝かせます。

 

どうして1000年以上も前の作品が良い状態で埋もれていたのか――それは火山灰の成分が湿気を吸い取ったおかげでした。

 

美術品は湿気が大の苦手です。湿度が高ければ絵画にはカビが生え、温度が高ければ劣化の速度が進んでしまいます。ですから現代の美術館は館内の湿度と温度を常に一定に保つよう調整しています。

しかし幸か不幸かポンペイの場合は、ヴェスビオ山から降り注いだ火山灰が、大量かつものすごいスピードで積もったため、美術品に対する天然のバリアとなり今日でも当時の色使いや技術を見ることができるのです。

ポンペイは現代都市にも劣らない市民のための都市だった

 

発掘されたポンペイからは当時の様子を示す様々なものが出てきました。

 

街並みは整然と区画分けがなされ、道路の脇には住居や商店が立ち並んでいました。商店内のメニューも残っていて、さながら昨日まで営業していたかのような雰囲気すらあります。

また上下水道が存在し、きれいな水が街中を巡っていました。

ホテルや公衆浴場、バーや娼館などの存在は、交易の中心としてのポンペイの当時の賑わいようがわかります。

 

 

 

しぐれ
しぐれ

娼館?……娼館ってなに?なにを売ってるんだろう?

せつな
せつな

……そのまんまです――ナニを売ってるんですよ

ふうか
ふうか

あの白鳥のやつどこに行った?絶対に逃がさんぞっ!

 


 

1000年以上もの間灰に埋もれていたポンペイの都市ですが、発掘が進むにつれて劣化が激しくなる美術品も出てくるようになりました。

埋もれていたことで当時のままの姿を残せていたのが、外に出ることで止まっていた時間が急速に失われていってしまう……なんとも皮肉で悲しい感じがします。

美術品の保管には設備や資金が不可欠ですが、当時の色合いを残した作品をできる限り後世にまで伝えていってほしいものですね。

 

その白鳥はいろんなものに姿を変えることができる(ただし好色)

 

さてポンペイについてはわかりましたが、今回の調査はフレスコ画の白鳥と女性がどういう目的で書かれたのか、という部分にあります。

普段漫画やアニメに親しんでいる私たちは、西洋芸術――それも古代文明の美術品となると、どこか真面目で教育的であるに違いない、そんな前提を持ってしまいがちです。

しかし人間は長い歴史を持っているとはいえ、そうそう本質は変わらないもの。

2000年近く前に書かれたポンペイのフレスコ画にも、現代の我々に共通するものがあったとしたら、なんか親近感が沸いてきませんか?

 

このフレスコ画に見られる組み合わせ――白鳥と裸の女性――というモチーフは、実は当時の人たちにとってはとてもなじみ深いものでした。

 

全知全能の神ゼウス、美女と交わるために世界を駆け巡る

 

ギリシャ神話に登場する全知全能の神ゼウス。

人類のみならず、他の神々や宇宙さえもその支配下におくという絶対神ゼウスについてのエピソードは枚挙に暇がありません。

その数々のエピソードの中でも庶民やとりわけ芸術家に好まれた部分が、ゼウスの持つ好色性でした。

 


 

 

しぐれ
しぐれ

好色……ってどういう意味なのかな?

せつな
せつな

女の人が好きでたまらないだけでなく、見境なく突撃するタイプのことをいう……一般的な女子にとっては敵でしかないかと

ふうか
ふうか

神ともあろうものがなんと情けない……やはりここは私が喝を入れるべきか

せつな
せつな

……ゼウスは女の人だけでなく、美少年にも手を出したとか出さなかったとかそんな話もある

しぐれ
しぐれ

……そ、そうなんだ、神様にもいろんなタイプがいるんだね……

 

 


 

ゼウスの正妻としてはヘラが有名ですが、その前にもゼウスは別の女神と結婚していました。

ヘラに対してはカッコウの姿になって襲おうとしており、ヘラはゼウスに今の妻と離婚することを強要してから身体を許したとされています。

 

もうこのエピソードからして常人の想像の域を超えているのですが、ヘラと夫婦になってからもゼウスの好色ぶりは一向に衰えることを知らず、美女とみては神であろうが人間だろうがアタックしていきました。

どういうわけかゼウスは相手に自分の素性を見せることをよしとせず、牛やウズラなどの動物、また時には雨や人妻の夫の姿に変身しては次々と子供を生ませていきます。特に最後の変身パターンについては正直外道という気もしますね……。

 

そしてその変身した動物の中に白鳥がいました――今回のフレスコ画に書かれたあの白鳥です。

 

レダ――鷹に追われた白鳥を助けたことで卵を産むことになった女性

 

レダ:ギュスターヴ・モロー

 

レダという女性はスパルタ王の妻で、例によってゼウスはレダに一目ぼれしてしまいます。

そこでゼウスは自分を白鳥に変え、小芝居を一つ入れることにします。

白鳥となった自分を獰猛な鷹に追わせ、偶然を装いレダの元に近づいていったのです。

 

今時の中学生でも考えないだろう古典的な方法はなんと見事に成功してしまいます。

白鳥となったゼウスはスパルタ王の目を盗みレダと密通を繰りかえし、やがてレダはゼウスの子を卵として産むことになります。……卵から生まれたヘレネは絶世の美女として後にトロイア戦争の要因になりますがそれはまた別の話で。

 


 

 

ふうか
ふうか

神ともあろうものが下手な芝居をせずともよいものを……まったく腰抜けではないか!

しぐれ
しぐれ

う~ん、でも相手が神様だと知ってたら女の人は断れないだろうから、身分を隠すことで公平な立場ってことにしたかったのかも

せつな
せつな

それにしたって別に動物に変身することもないと思う

 

 


 

この「卵を産む」という部分にビビッときたのかはわかりませんが、白鳥に変身したゼウスとレダとの密通は、後の芸術家たちに大きなインスピレーションを与えることになります。

そしてそれは現代社会の中にもある種の影響を与えているのです。

 

人類共通の関心事、それはやはり「エロス」だった

 

14世紀にイタリアから始まったルネサンス時代。

200年近く続いたこの文化的運動の主旨の一つに、古代ギリシアやローマ文化の復興がありました。

ルネサンス期を代表する人物である、レオナルド・ダ・ヴィンチやミケランジェロといった画家たちが書いた作品の中に「レダと白鳥」と呼ばれるものがあります。

 

レダと白鳥:ダ・ヴィンチの絵をチェザーレ・ダ・セストが模写したもの

 

上の絵はダ・ヴィンチが書いたものとされる「レダと白鳥」です。

今回ポンペイから見つかったフレスコ画と構成が似ていますね。

もちろん裸の女性は紹介したレダで、どこかたくましすぎる感じの白鳥がゼウスです。

この構成を使った絵はいくつも存在していますが、実は初めからこういう組み合わせではありませんでした。初めはレダとゼウスは人間の姿をして交わっていたのです

 

しかしいつの時代も行き過ぎた性描写はお偉い人たちにマークされる運命にあります。

芸術に花が咲いたルネサンス時代とてその例外ではありませんでした。当時のローマ教皇庁は露骨な性愛描写を書いた作品の破棄を命じたのでした。

 


 

でもあれ?と思った方がいるかもしれません。

今回発見されたポンペイのフレスコ画はルネサンス期よりもずっと前の作品です。

ということはその時代から既に、露骨なエロス表現を回避する方法としてレダと白鳥というモチーフは使われていたことになります。

そしてさらにそこから読み取れるのは、当時――いまから2000年近く前の文化――においてもエロス表現は規制にさらされていた、ということです。

 

発掘されたポンペイが、当時としては豊かで生活水準も高く、娼館などの存在から性に対して奔放であったであろうことから推測しても、家の外壁に露骨な性描写のフレスコ画を描くのは敬遠されたというわけです。

 

表現の自由という言葉が言われるようになって久しいですが、こと性的な部分に関してはいつの時代もデリケートな問題だったのがわかりますね。

 

ちなみに今回発掘調査に関わったポンペイ考古学公園のマッシモ・オサンナ氏によると、この壁画を書かせたのは当時の商人で、自分が神話に詳しく文化的な教養があることを見せるためにそうしたのではないか、とのことでした。

真相はわかりませんが、芸術作品がそれを持つ人のステータスになるという点については現代と同じなのでしょう。

そしてその他人に見せるものが真面目一辺倒なものではなく、あらゆる人の興味を引き付ける題材――つまりはエロス作品だった、ということに人類のぬぐい切れない性(さが)を感じてしまいます。

 

エロスがなければ人類は発展しなかったのですから、たまには芸術作品の裏に隠されたエロスの意味について思いを巡らしてみるのもいいかもしれませんね。

 


 

 

せつな
せつな

これは絵です!ただの絵ですから実在はしていません!それが何か!?

しぐれ
しぐれ

せつなちゃん、どうしてそんなに怒ってるの~?!

ふうか
ふうか

ふむ……敵は白鳥ではなくてそれを規制しようとする連中というわけか

せつな
せつな

私一人になっても戦い抜く……この芸術作品を守ってみせる……

しぐれ
しぐれ

……って、またいっぱい漫画買い込んできてるよ~!

 

 


 

以上、ポンペイ遺跡とエロティックなフレスコ画、白鳥とレダの秘密についての報告でした。

ここまで読んでいただきありがとうございました!

 

 

参考:abc.net

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