ドラキュラのモデルとなったヴラド・ツェペシュ 手紙の分析から晩年の健康状態が明らかに

歴史
(Vlad Tepes/Public Domain)

ドラキュラのモデルとなった人物が書き残した手紙を分析した結果、含まれていたタンパク質から、様々な疾患を示す証拠が見つかりました。

 

15世紀のワラキア公ヴラド・ツェペシュ(1431-1476)は、処刑や粛清の際、串刺しを多用したことから「串刺し公」と呼ばれ、敵対していたオスマン帝国から大いに恐れられました。

ヴラドは、父親が「ドラクル (ドラゴン公)」と呼ばれていたことから、その息子という意味の「ドラクレア (ドラキュラ)」という名でも知られています。

しかしドラキュラという名前が、現代に理解されているような吸血鬼という意味を持つようになったのは、19世紀末に、小説「吸血鬼ドラキュラ」が発表されてからでした。

作者のブラム・ストーカーは、強大な力をもつドラキュラを、数々の残虐なエピソードを残したヴラドをモデルに創作しました。

 

今回、イタリアのカターニア大学などの研究チームは、ヴラドの書き残した3通の手紙から、非侵襲的な手法を使って複数の分子を抽出しました。

ヴラドは晩年、重い病気にかかっており、血の涙さえ流していた可能性があります。

 

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手紙に含まれるタンパク質からわかるヴラド・ツェペシュの健康状態

 

分析は、ヴラドが1457年と1475年に書いた3通の手紙を対象に行われました。

これまで古い手紙や布などは取り扱いが難しく、そこに当時の人たちの痕跡が残っていても、傷つけずに分子を抽出するのは簡単ではありませんでした。

しかし近年になり、エチレン酢酸ビニル(EVA)を使った技術が確立され、対象を傷つけることなく、タンパク質やペプチドなどを採取できるようになりました。

これらの分子には、人間の健康状態に関わる化学物資が含まれていることがあり、それを特定できれば、当時の人々が食べていたものや生活環境を知るヒントが得られます。

 

1475年8月4日付けのヴラド・ツェペシュの手紙。左の長方形の物体が分子を捕捉するためのEVA。右は紫外線を照射したもので、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファンが浮かび上がっている (Pittalà et al.,Anal.Chem.,2023)

 

現代まで残っているヴラドの手紙は、本人以外にも様々な人が触れています。

そこで研究では、抽出された何千もの分子のうち、劣化が進んでいるもの(つまり古いもの)から優先的に分析されました。

手紙からは様々な分子が見つかりましたが、ヴラドに関連するものとしては、皮膚、呼吸、血液の疾患を示す、16のタンパク質が特定されました。

これらのタンパク質のなかには、肺や鼻腔の感染症に結び付くものや、網膜と涙、そして血液に関連するものが含まれていました。

総合すると、タンパク質の証拠は、ヴラドが呼吸器疾患および皮膚の炎症を患っており、さらには、血涙(Haemolacria-ヘモラクリア)として知られる目の病気にもかかっていた可能性があることを示しています。

カタリーナ大学の化学者であるマリア・ガエタナ・ジョヴァンナ・ピッタラ氏が主導したチームは、「今回のデータだけでは決定的とは言えない」としつつも、「ヴラド・ツェペシュはおそらく、人生の最後の数年間、血涙と呼ばれる病理学的状態に苦しんでいた。つまり彼は血の混じった涙を流していただろう」と結論づけています。

 

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今回の分析では、15世紀後半の人たちの生活環境に関するデータも得ることができました。

手紙から抽出された分子には、細菌、ウイルス、菌類、昆虫、植物など、人間由来ではないペプチドも多く含まれていました。

これらの中には、当時ヨーロッパで猛威を振るったペスト(黒死病)に関連するタンパク質や、ダニや蚊、ショウジョウバエに由来するものなどがありました。

こうした様々な分子は、当時の状況を、文書の内容以上に現代に伝えています。

研究チームは、今回の技術が他の古文書にも使われるようになれば、遠い昔の理解にさらに近づくことができると指摘しています。

 

研究結果は「Analytical Chemistry」に掲載されました。

 

 

 


 

 

ふうか
ふうか

手紙に残っているタンパク質から病気がわかるとは面白い

しぐれ
しぐれ

古いものほどいろんな人が触れてるから、精度の向上が今後の課題だね

 

References: The Independent,Sciencealert