歴史の皮肉、スペイン人の侵略を手助けしたメソアメリカの高い製錬技術

歴史
(La Noche Triste/Public Domain/Wikimedia Commons)

スペインは大航海時代を通じて、メソアメリカ――今のメキシコ、グアテマラ、ベリーズ、ホンジュラス地域――を首尾よく征服しました。

当時のヨーロッパとメソアメリカで使用されていた武器の違いは、戦いの結果を左右しました。

現地の人たちは殺されるかあるいは強制労働させられ、征服者であるスペイン人によって過酷な生活を強いられました。

しかし考古学的な証拠は、一部の技術者が特権を受けており、それなりの生活が保証されていたことを示しています。

スペインの征服事業を支えていたのは、現地に伝わる金属の製造技術と熟練した職人たちの存在でした。

 

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メソアメリカの職人はスペイン人のために武器や大砲を作った

 

米国マサチューセッツ工科大学とポルトガルのポルト大学の研究者チームは、メキシコにあるエル・マンチョン遺跡(El Manchón)で行われてきた長年の発掘調査から、この地域がスペイン人のために金属を生産する役割を持っていたと報告しています。

エル・マンチョンは3つのセクターで構成され、そのうちの2つが住宅区域、もう1つが宗教的な聖域として使われていました。

この集落は1240年から1680年まで使われていたと推測されていますが、スペイン人の存在を示す証拠は一切なく、メソアメリカの文化的な特徴を持っていました。

一方で、既知のアステカの民族グループとは異なる部分もありました。

セクターの中間地点には、大量のスラグが残されていました。

スラグの存在は、この集落が恒常的に鉄や銅などの製錬を行っていたことを意味します。

(※スラグは鉱石から金属を分離する際に出る物質で、現代では産業廃棄物として扱われます)

 

エル・マンチョンの遺跡で見つかった炉の跡 (Images Credit: Dorothy Hosler)

 

メソアメリカの製錬技術は、スペインの征服者にとって願ってもないことでした。

当時のスペインは何年もの間国内で金属を生産しておらず、そのほとんどを中央ヨーロッパからの輸入に頼っていました。

Latin American Antiquityに掲載された研究の著者の一人で、マサチューセッツ工科大学の考古学者であるドロシー・ホスラー(Dorothy Hosler)教授は、スペインの侵略者は大砲やその他の武器のために大量の銅と錫を必要としていたと説明する一方、歴史的な記録として、この時期のスペイン人は金属を製造する知識と技術に欠けていたと話します。

エル・マンチョンでの考古学的データは、現地の住人が数百年間にわたって銅を精錬しており、主に(武器ではなく)鐘やお守りなどの儀式に使用されるアイテムを作っていたことを示しました。

(※製錬は鉱石から金属を取り出すこと。精錬は金属の純度を高めること)

職人は熟練していたと推測され、この場所では、銅と銀、銅とヒ素、銅と錫といった複雑な合金が製造されていたことがわかっています。

 

しかし先住民が精錬に使っていた道具は、小規模な物しか扱うことができませんでした。

そこで征服者であるスペイン人は、彼らにヨーロッパの技術を伝え、より大きな大砲と武器を作らせました。

集落のスラグが残されていた場所からは、ヨーロッパ式のベローズ(ふいご―金属の精錬時に風を送る道具)を動力源とした製鉄の証拠が発見されています。

研究者はこれを、ヨーロッパとメソアメリカの技術が融合したハイブリッド型の製鉄炉の遺構だと推測しています。

 

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ホスラー教授の考古学チームは、メキシコのゲレーロ州にある遺跡の調査でも大量のスラグを発見しています。

調査は残念ながら麻薬カルテルの活動のために中断を余儀なくされましたが、これまでに見つかった物的証拠から、この集落でもヨーロッパ式のベローズを使った精錬が行われていたことがわかりました。

植民地時代の初期にスペインに送り返された文書のなかには、地元で生産された銅のことや、それらを使って先住民が青銅の大砲を作ったことなどが記されています。

ホスラー教授はそうした文書から、「ヨーロッパ人は銅を製錬するために先住民と協力しなければならなかった」と説明し、また、熟練の職人は、他の先住民に課されていた税の免除を交渉することができたと話しています。

 

 

 


 

 

しぐれ
しぐれ

銅はコインやフライパンを作るのにも使われたみたいだよ

ふうか
ふうか

自分たちの高い技術が同胞の命を奪うことになるというのは皮肉なものだな

 

References: Massachusetts Institute of Technology