ブラム・ストーカーが「ドラキュラ」を執筆して以降、世界には様々なタイプの吸血鬼が溢れるようになりました。
今や恐怖の対象ではなくポップアイコンになりつつある吸血鬼にはある特別な才能があります。
それは吸血した相手も吸血鬼になるという特性です。
古い時代の小説や映画は吸血鬼の恐ろしさを中心に描き、噛まれた人間が吸血鬼一族に加わることについてあまり詳細を語りませんでした。
しかしもし小説や映画がエンドロールの後も続いたとしたら、世界にはどれだけの吸血鬼が存在することになるのでしょう。
また吸血鬼作品には大抵の場合、彼らの天敵とも呼べる「吸血鬼ハンター」が存在しています。
吸血鬼ハンターは吸血鬼を狩るだけでなく、人類が吸血鬼になるのを防ぐ役割もあります。
ある科学者は、“もし世界が吸血鬼に襲われたとしたらどれくらいの速さで人類が滅亡するのか”をシミュレートできる計算機を作成しています。
計算結果は吸血鬼の恐ろしさを改めて示すものとなりました。
吸血鬼が世界を支配するまでの日数をシミュレートする計算機
ポーランドの核物理学研究所の物理学者であるドミニク・ツェルニア氏は、フィクションの吸血鬼と数学モデルを調査している国際的な科学者チームの論文を見た後に、計算機の発想を思いつきました。
吸血鬼は人間の血を吸うことで永遠の命を享受し、吸われた人間も後によみがえり吸血鬼の仲間となります。
もしこのサイクルが途切れることなく続くとすれば、吸血鬼の数は指数関数的に増え、人類はあっという間に絶滅してしまいます。
しかしフィクションの世界には救世主となる吸血鬼ハンターがいます。
ツェルニア氏は「吸血鬼」「人間」「吸血鬼ハンター」の3つの要素を含めた世界の人口推移を、ゲーム理論に基づいた「ロトカ・ヴォルテラの方程式」(捕食者-被食者モデル)を使って表しました。
これは非常に時間のかかるプロジェクトでした。すべてが挑戦的であり完了するのに約1カ月を要しました。
計算機は細かいパラメータを設定することができます。
それぞれの現在の人数をはじめ、吸血鬼の吸血に対する積極性や噛まれた際に人類が吸血鬼に変化する確率、また吸血鬼ハンターがどれくらいの覚悟で仕事に臨んでいるかなど事細かな設定が可能です。
また計算機にはいくつかの有名な作品とその世界を元にしたデモパターンが用意されています。
最初のパターンはブラム・ストーカーの「ドラキュラ」と、スティーブン・キングの「呪われた町(Salem’s Lot)」を使用しています。
(2つの作品は舞台の年代が異なりますが、キングの「呪われた町」はストーカーのドラキュラの設定をリスペクトし現代に置き換えたものであることから同じ数値を使っているものと考えられます)
このパターンでは、世界の人口は16億5,000万人で、噛まれた人間は100%吸血鬼へと変貌します。
また世界の人口は年率1%上昇し、吸血鬼は最初の時点でたったの1人、そして吸血鬼ハンターは存在しません。(この場合の吸血鬼ハンターは職業的に吸血鬼を殺すことを生業にしている者を指します)
では、この設定で人類が滅びるのにどれだけの時間がかかるでしょうか?
計算によると13.8カ月で人類と吸血鬼の数は逆転し、30.2カ月で残った人類はたったの1人になり、30.8カ月で人類は地球からその姿を消すことになります。
もし2つの小説に続きがあったとしたら、人間側は相当の苦労を強いられていたに違いありません。
吸血鬼の恐ろしいまでの増殖スピード――対抗の鍵は吸血鬼ハンターの数
「Salem’s Lot」のビデオパッケージ ⒸWarner Bros.Television
吸血鬼の増殖スピードは想像以上のものでしたが、ストーカーとキングの作品には吸血鬼を狩る吸血鬼ハンターが描かれていません。
人間にとってヒーローであり、吸血鬼にとっては最大のライバルである吸血鬼ハンターをこの設定に放り込んでみたとしたら、果たして世界を救うことはできるでしょうか。
試しに吸血鬼ハンターを100人登場させてみましょう。
彼らは吸血鬼を倒すモチベーションに溢れていて、積極的なリクルートにより年間でその数を倍にするものとします。
吸血鬼1人に対しハンターが100人なら……これはいけそうな気がしますね?
結果は……あぁ、またしても人類の滅亡です!
この設定では、人類の数は15.6カ月目に吸血鬼に抜かれ、36.2カ月でゼロになります。
計算結果は吸血鬼の恐ろしいまでの増殖力を露わにしています。
このシミュレーションは、吸血鬼が餌である人間を無差別に吸血していくことが前提です。
計算モデルに使われたロトカ・ヴォルテラの方程式は、自然界の捕食者と被捕食者との関係を表すためによく利用されます。
通常捕食者が餌をとりすぎると食べるものがなくなるため、それまでに増殖した個体数も次第に減っていくことになります。
一方で被捕食者側は食べられる危険が減ることで徐々に個体数を回復することができます。
狩る者と狩られる者との関係はこのサイクルを続けることで成り立っています。
つまり実際のところ方程式を当てはめたとしても、動物よりも頭のいい吸血鬼が、自分たちの餌である人間を絶滅に追い込むまで食べつくすことは考えられないと言えます。
仮に小説の設定が現実だったとしても、人類の数はどこかで踏みとどまることになるでしょう。
それでも吸血鬼ハンターが存在しない場合、人類は永遠に吸血鬼の餌になるため、人類が再び地球の支配者に返り咲くためには吸血鬼ハンターの存在は必要不可欠です。
※ちなみにこの設定で人類が生き残り、吸血鬼を一掃するためには、かなりの数の吸血鬼ハンターを雇わなければなりません。(興味のある方は実際の計算機に触れてみてくださいね)
計算機には他にも、アン・ライスの「夜明けのヴァンパイア(インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア)」を使った設定や、テレビドラマや映画で人気を博した「トゥルーブラッド」や「トワイライト」の設定などもあります。
またカスタム機能もあるので、例えば自分の住む町に吸血鬼が襲ってきた場合、生き残るためには何人のハンターが必要なのかといったシミュレーションもできます。
今のうちに計算機を使って吸血鬼の存在が現実となった場合の心構えをしておきましょう。(そしてもし可能ならば吸血鬼ハンターと友達になりましょう)
……さもなければ、人類の滅亡はたった1人の吸血鬼によってもたらされることになります。
吸血鬼など一太刀で片付けてくれる!
ゲームで鍛えた射撃の腕の見せ所……
と、とりあえずニンニクと十字架はストックしておこうかな……
References:ScienceAlert,OmniCalculator