スウェーデン中南部のヴェッテルン湖の近くにあるルーン文字で書かれた石碑には、息子の死を嘆く父親のことだけでなく、気候変動による終末への不安も表現されている可能性があります。
9世紀頃に建てられたと考えられている「レーク石碑(Rök runestone)」は、750以上のルーン文字が使われたヴァイキング時代のルーン石碑の一つです。
この石碑には「テオドリック」という名前の英雄のことや、石碑が息子の死を悼む父によって建てられたことなどが記されていますが、全ての内容を解読するには至っていません。
(一部の学者は石碑に書かれたテオドリックを、6世紀に実在した東ゴート王であるテオドリックと同一人物であると考えています)
先日スウェーデンの3つの大学が共同でこのルーン石碑の分析を行っています。
研究結果によるとレーク石碑には、死んだ息子のことだけでなく、ヴァイキングが信じていた世界の終わり「ラグナロク」への不安や恐怖も綴られています。
ラグナロクとその前兆であるフィンブルの冬への恐怖
(Bengt Olof ÅRADSSON/Wikimedia Commons/CC BY 1.0)
スウェーデンのヨーテボリ大学、ウプサラ大学、ストックホルム大学の研究者で作られたチームは、ヴァイキング時代の最も有名な石碑の一つであるレーク石碑を共同で調査しています。
この石碑はこれまでテオドリックの英雄的な戦いについて書かれたものだと解釈されてきましたが、意味がわかっていない文章も多く残っており、研究者にとって常に関心の対象でした。
チームは考古学だけでなく、言語学や宗教といった別の分野を交えたアプローチに基づいて、石碑に書かれた文章の解釈を改めて試みました。
そこでわかったのは、書かれた文章が戦いや息子の死といった個人的なものだけでなく、「光と闇、生と死の対立」といった大きなテーマについても触れているということでした。
研究者は、この石碑を作成した人物が、ヴァイキングが信仰していた世界の終末である「ラグナロク」に対する不安や恐怖を文章で表現したと推測しています。
石碑の作者の終末への恐怖は、実際に起きた前触れとなる現象によって確信へと変わりました。
研究著者は、「この碑文は西暦536年以降の壊滅的な危機と、息子の死によって引き起こされた不安を扱っている」と述べています。
この“壊滅的な危機”は一連の火山噴火によって起き、平均気温の低下や作物の荒廃、それに続く飢餓などをもたらし、当時のヴァイキング社会に大きな打撃を与えました。
これによってスカンジナビア半島の人口は少なくとも50%減少したと推定されており、研究者はこの出来事が石碑の内容に影響を与えたのではないかと考えています。
ウプサラ大学の考古学の教授ボー・グラスランド氏は、「強力な太陽嵐によって空は劇的な赤に染まり、寒冷な夏が収穫量を減らし、日の出の直後に日食が発生した」と述べ、それは石碑の作者にとって「非常に不吉」なものに写っただろうと説明しました。
またレーク石碑が将来への不安を描いたものであるとする根拠には、ラグナロクが起こる前に発生するとされる「フィンブルの冬(Fimbulwinter )」の存在があります。
フィンブルの冬はラグナロクの前兆となる不吉な出来事のことで、3年の間夏が来ず寒い冬が続き、人々が争い殺しあうとされています。
グラスランド教授は、「レーク石碑が建てられる前に不吉な出来事が多く発生した」と述べ、それらの出来事の一つだけでも、フィンブルの冬への恐怖を連想させるには十分だっただろうと指摘しています。
ヴァイキングにとって天変地異は世界の終わりを連想させるものだったのだな
ルーン石碑の多くは自慢話や亡くなった人のことを書いているらしい……
ルーン石碑に書くほど当時の自然災害がひどかったってことだね
References: University of Gothenburg