681隻の沈没船が明らかにする海賊の新たなイメージ

歴史

現在世界の海には300万隻の船が沈んでいるといわれています。

沈没船と聞くとまず思い浮かぶのが財宝を積んだ商船とそれを狙う海賊たちの姿でしょう。

大航海時代や17世紀のいわゆる海賊の黄金時代などの逸話は私たちの興味を引き付けます。

海賊と彼らの生きた時代はこれまで多くの映画や小説、ゲームなどの題材になってきました。

 

彼らは積み荷でいっぱいの商船を襲い何隻もの船を沈めたと考えられています。

“海賊と海賊によって沈められた船”というイメージは私たちにとって極めて一般的なものといってよいでしょう。

 

しかしスペインの考古学者たちの5年にわたる調査は意外な結論を導き出しました。

沈んだ船の多くは海賊とは無関係でした。

 

船が沈んだ理由のほとんどは天候によるもの

 

 

スペイン文化省で働く考古学者のCarlos León氏を含む3人のチームは5年にわたってアメリカ大西洋岸に沈んだとされる681隻の船について調査しました。

これはコロンブスが乗っていたサンタ・マリア号の沈没した1492年から1898年までを対象に、キューバ、パナマ、ドミニカ共和国、ハイチ、バミューダ、バハマの海域に沈んだ船を調べたものです。

 

この調査には2つの目的がありました。

それは”沈没船の密集している地域の特定とその保護に使用できるツールを考え出すこと”、もう1つが”忘れられていた歴史を回復すること”でした。

León氏は有名な船以外にも全く知られていない膨大な船が海底に存在していることを挙げ、失われた歴史のために目録を作る意義を強調しました。

 

調査チームはセビリアとマドリードに残っている沈没船に関するアーカイブを精査し、船が沈んだ理由を一つ一つ記録していきました。

681もの沈没船のデータが示した結果は、現代人が持つ海賊とその船に対するイメージとは大きくかけ離れたものでした。

 

91.2%の船は悪天候のために沈没していました。

4.3%の船はサンゴ礁やその他の航海上の問題で沈み、1.4%がイギリスやオランダ、アメリカの船舶との戦闘で失われました。

そして最後に0.8%の船だけが海賊との交戦で失われたことが判明しました。

 

なんとも意外で拍子抜けな結果ですが、当時の船の構造や操船技術などを考えると悪天候が最大の敵だったというのは当然の結果かもしれません。

 


 

León氏たちのチームは集めたデータから、沈没船が一定の地域に密集していることを発見しました。

特にパナマ、ドミニカ共和国、フロリダキーズの海域には沈没船が集中して沈んでいる12の地域がありました。

その理由はこの地域の地形に関係しています。

 

これらの地域は非常に解放的です。16世紀から17世紀にかけて毎年ここで貿易フェスティバルが開催されていました。

 

León氏はフェスティバルは大量の船を集めたが、嵐に対して無防備な場所であったため多くの船が沈んだと考えています。

 

当時の船には様々なものが積まれていた

 

Photo by Medieval carrack – detail by Pieter Bruegel the Elder – Carrack – Wikipedia

 

沈没船には黄金が積まれているというのが大方のイメージですが、実のところこの時代の船は現代と同じように多種多様な荷物を運んでいました。

681の沈没船のうちの4分1の場所を特定したチームはその船たちが多様な品物を積んでいたことに驚きました。

 

貿易のための貨物はもちろんですが、中には現地で教会を建てるための遺物や装飾品、さらには石といった宗教的な物が積まれた船もありました。

またスペインの植民地で働く奴隷たちのための衣服を積んだ船も見つかっています。

 

こうした調査結果は当時のスペインが国を豊かにするためにあらゆる行動をとっていたことを示しています。

 

現代のトレジャーハンターたちから文化的遺産を守る試み

 

沈没船の目録の作成はトレジャーハンターたちから遺産を守るという目的も含まれています。

León氏たちはスペイン政府と沈没船が沈む地域の国々とがデータを共有するよう働きかけています。

 

トレジャーハンターたちは沈没船を文化的遺産とはみなしておらずもっぱら金銭目的で活動しています。

2001年に水中文化遺産を守るために作られた条約(水中文化遺産保護条約)ができるまでは、世界の沈没船から多くの金銭的価値のあるものが引き上げられ違法なオークションにかけられてきました。

 

León氏は沈没船のデータがトレジャーハンターの手に渡らないように条約を批准した国々と連携していく必要があると訴えています。

しかし同時に彼らは少なくとも金銭的価値のない船に関しては興味を待たないだろうとも付け加えています。

 


 

León氏たちのチームはさらに調査範囲を広げたいと考えています。

今後はカリブ海全域の沈没船を記録し、その後は太平洋へも繰り出していきたいと抱負を述べました。

 

 

 


 

海賊は多くの船を沈めてきたというイメージがありますが、実際はそうでもなかったことがわかりました。

しかし世界の海にはまだまだ見つかっていない沈没船が存在しています。

León氏たちの今後の活動が海賊の新たなイメージにつながれば面白いですね。

 

 

References:TheGuardian