母の愛情はいつの時代も変わらない――先史時代の墓地で発見された特徴的な哺乳瓶

歴史
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Nature誌に掲載された新しい研究は、先史時代のお母さんたちが現代とあまり変わらない方法で赤ちゃんを育てていたことを明らかにしています。

赤ちゃんには栄養が必要です。

動物のお母さんは母乳で子供を育てますが、人の場合は母乳に加え牛や山羊など動物の乳を与えることもあります。

現代社会にはそれらの栄養たっぷりの液体を入れる容器がたくさんあります。

しかし古代においてそうした容器は貴重であり、また作る技術も今と比べて乏しかったこともあり、当時の赤ちゃんがどのようにして乳を飲んでいたのかはよくわかっていませんでした。

今回ドイツの先史時代の子供の墓から発見された特徴的な容器は、化学的な検査の結果、動物の乳を入れた「哺乳瓶」である可能性が高いことが判明しています。

母親はいつだって子供に強く元気に育ってほしいと願っています――それはたとえ古代であっても変わりありません。

 

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子供たちの墓地で見つかった特徴的な容器

 

発見された特徴的な“哺乳瓶” Photographs were taken by Katharina Rebay-Salisbury.

 

ドイツのバイエルン州にあるアルトミュール渓谷には、紀元前450年から1,200年の間に作られた2つの子供たちのための墓地があります。

この墓地の発掘調査では過去に足や動物をかたどったとみられる特徴的な容器が見つかっています。

この容器について研究者たちは、哺乳瓶もしくは病気の人たちの飲み物のための容器だと推測していました。

容器は直径が5~10センチほどで非常に細い注ぎ口が特徴です。

しかしこれらの容器に付着している残留物を化学分析にかけたところ、そこには意外な物質が存在していたことがわかりました。

 

検出された物質は動物の乳に関連するもので、その形状と合わせて考えるならば、この容器は離乳のために(母乳から移行するために)使われた哺乳瓶の可能性があります。

検出されたパルミチン酸とステアリン酸からなる脂肪酸と、古代の陶器からはめったに見つかることのない短鎖脂肪酸は新鮮な乳脂肪に関連しています。

また同位体分析は、容器の残留物の中に母乳の成分も含まれていたことを明らかにしていて、当時のミルクが複数の乳の混合物であったことを示唆しました。

 

研究著者の一人であるブリストル大学のジュリー・ダン氏は、この発見は何千年も前の赤ちゃんがどのようなものを与えられていたのかに関する貴重な情報につながるものだ、と述べます。

 

世界中の先史時代の文化にも似たようなもの(容器)があります。将来的にはより広範囲な地理的調査を行うことで、これらが同じ目的を果たしていたのかどうかを知りたいと考えています。

 

ダン氏は新石器時代に起きた人口爆発にこの離乳のための哺乳瓶が一役買ったと考えています。

この時代の研究では、中央ヨーロッパの新石器時代から鉄器時代までの間に生きた赤ちゃんが、生後6か月で補助食品を与えられ2~3歳で離乳したというのが定説となっています。

(これよりも前の時代は離乳に要する時間がさらに長かったと推測されています)

 

この発見は新石器時代の女性がさらに多くの赤ちゃんを産むことができた理由を説明するのに役立ちます。これは単なる哺乳瓶以上の意味がある発見といえます。

 

赤ちゃんを育てるために母乳に頼らなくてもよい環境は、母親が次の子供を産むのを早めます。

そして哺乳瓶に動物性の乳が使われていたことは、当時の人たちが組織的に牛や山羊、羊といった動物たちを管理していたことを示しています。

 

これまで当時の赤ちゃんが離乳していたかどうかを知るには乳児の遺体の歯を調べるしかありませんでした。

しかし今回の発見のように、当時使われていた容器が離乳の証拠となる可能性が出てきたことで、世界各地の先史時代の研究が一歩前進する可能性があります。

 

母親の愛情を示す先史時代の哺乳瓶

 

奇妙な形をした哺乳瓶は実際に子供たちに栄養を与える役目を果たすことができたのでしょうか?

研究者たちは推測だけでは飽き足らず実際に試してみることにしました。

 

実験の対象となったのは、研究著者の一人であるカタリナ・ソールズベリー氏の息子で1歳を過ぎたばかりのノア君です。

墓から見つかった容器をそのまま使うわけにはいかないので、研究者たちは精工なレプリカを作成し、そこにノア君の好きな飲み物であるアップルジュースを入れました。

口元に奇妙な容器を近づけられたノア君は一体どういう反応を見せたのでしょう。

 

古代の哺乳瓶でアップルジュースを飲むノア君。Photograph was taken by H. Seidl da Fonseca.

 

結果に対しダン氏は「彼がそれ(容器)をどれだけ愛していたのかに私たちは驚いた」と語ります。

 

彼は容器を使いとても直観的にそれを飲んでいるように見えました。赤ちゃんの手にぴったり合うようなデザインはとても興味深いものがあります。これは先史時代の人々が赤ちゃんに対して抱いていた愛情と思いやりを示していると思います。

 

ダン氏は哺乳瓶の形がおもちゃに似ていることから、これが当時の赤ちゃんをにっこりとさせたのではないかとも付け加えています。

 


 

赤ちゃんの成長のために作られた哺乳瓶ですが、当時の環境は大人たちでさえ生きていくのが困難なものでした。

一部の研究者たちは、当時の衛生環境の悪さが乳幼児たちに感染症のリスクをもたらしたと考えています。

現代のように洗剤を使って哺乳瓶を洗うことはできない時代です。

哺乳瓶が見つかった場所が子供たちの墓だったというのは何とも悲しい事実です。

しかし母親の子供に対する愛情はいつの時代も変わりありません。

墓で見つかった副葬品は、子供の成長を願う母親の愛情が詰まったとっておきの哺乳瓶でした。

 

 

 

References:CNN,The Guardian