スカンジナビア山脈の解けた氷河の中から、ヴァイキング時代に使われていたものを含む大量の遺物が発見されています。
ノルウェーのヨトゥンヘイム山地の標高約1,800メートル付近にあるレンドブリーン(Lendbreen)氷河は、2011年の暖かい夏以降氷が解けだしており、露出した地面からは、考古学者が“夢の発見”と呼ぶような数々の歴史的な遺物が見つかっています。
ノルウェーとイギリスの考古学者チームは、2011年から2015年までにレンドブリーンで収集した遺物の分析結果をまとめ、この場所が1,000年以上の間、人々の行きかう重要な交易路であったことを明らかにしています。
人々の活発な交流の跡を示す氷河からの証拠
ノルウェーとイギリスの氷河考古学の専門チームは、過去にレンドブリーンで3~4世紀頃の羊毛のチュニックが発見されたことから、この氷河の気温と氷の後退を見守ってきました。
近年進みつつある温暖化は氷河の氷を解かし、2011年には例年にない暖かさによってレンドブリーンからは大量の遺物が発見されました。
考古学者はその後毎年氷河を訪れ、再び雪で覆われてしまう前に、露出した地面から遺物を収集しカタログ化していきました。
これまでに収集された遺物は数百点にも及んでいます。
2006年と2019年のレンドブリーン氷河 (Photo: Espen Finstad, secretsoftheice.com)
Antiquityに掲載された研究は、この場所が西暦300~1500年までの間に利用された交易路であり、またその衰退の理由が、14世紀の黒死病にあることを突き止めています。
分析は2011年から2015年に収集された60点に対して行われました。
発見されたものは、靴、ミトン、衣類、木製の火口箱、そりとその一部、小さなナイフなど多岐にわたりました。
これらの発見物を放射性炭素年代測定にかけたところ、その年代の幅は西暦300年から1500年までの間であり、また遺物で最も多かった年代が、ヴァイキングが隆盛を誇っていた西暦1000年前後であることがわかりました。
ヴァイキング時代の繊維 (Photo: secretsoftheice.com)
この時代は機動性や政治の集中化、そして貿易と都市化が進んだ時代であり、それを裏付けるようにこの場所からは、馬の蹄鉄や雪の上を歩くのに使われたスノーシュー、旅行者の道しるべとなった積み石の跡などが見つかっています。
これらは、この山岳地帯が当時の交易路であったことを示す強力な証拠です。
また年代測定の結果は、ヨーロッパの人口を大きく減らした14世紀の黒死病以降、この地域で発見される遺物が少なくなっていることも示しました。
流行病は人と物の流れに影響を与え、交易路は次第に使われなくなりました。
研究著者の一人である、ノルウェー文化遺産局のラース・ピロ(Lars Pilø)氏は、「レンドブリーンの衰退は、おそらく経済活動、気候変動、そして黒死病を含む中世後期の出来事の組み合わせによって起きた」と説明し、状況が回復したときには、既にこの場所は人々の記憶から失われていたのではないかと話しています。
今回の研究は、氷河が解けた山岳地帯の過去を知るためのモデルを提供します。
研究者の一人で英国ケンブリッジ大学の考学者であるジェームズ・バレット(James Barrett)氏は、この発見は「気候変動がもたらした感動的で刺激的な思い出である」と述べる一方、重要なのは個々のアイテムではなく、それらによってこの場所を旅していた人たちを理解できることだと強調しています。
研究チームは引き続き残っている遺物の分析を続け、近く結果を発表する予定です。
交易路が忘れられていったのは小氷期が始まったことも関係しているみたいだよ
氷によって歴史が封じ込められた場所は他にもたくさんありそうだな
References: ScienceAlert,The Guardian