マヤの幻の都市「サク・ツィ」の首都を特定、地元民が見つけた石板が手掛かりに

歴史
(HJPD/Wikimedia Commons/CC BY 3.0)

米国ブランダイス大学の考古学者は、古代マヤに存在していたとされる幻の都市「サク・ツィ(Sak Tz’i’)」の首都の痕跡を、メキシコの牛牧場の裏庭から発見したと報告しています。

サク・ツィは1994年に他のマヤ遺跡で発見された石碑に刻まれていた都市の名で、これまで多くの考古学者がその場所を特定しようと活動してきました。

現在サク・ツィのものと思われる遺跡は、メキシコのチアパス州にある「プラン・デ・アユトラ (Plan de Ayutla)」だけであり、これはサク・ツィのことを記した石碑がこの場所の近くの遺跡から発見されていることが根拠となっています。

プラン・デ・アユトラの周囲には、ヤシュチラン、ボナンパック、トニナ、ピエドラス・ネグラスといった古代マヤの強力な国家が存在しており、これらの遺跡で発見された石碑には、サク・ツィとの戦争の記録が残されています。

今回発見された首都の痕跡は、プラン・デ・アユトラと共に、サク・ツィを知るための重要なカギになります。

 

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マヤの幻の都市サク・ツィ

 

発掘の様子 Image credit: Charles Gordon

 

ブランダイス大学の人類学の教授チャールズ・ゴールデン(Charles Golden )氏と、ブラウン大学の考古学者アンドリュー・シェーラー(Andrew Scherer)氏、そしてメキシコやカナダの研究者たちで構成された国際的なグループは、2018年の6月から、チアパス州のラカンハ・ツェルタル(Lacanjá Tzeltal)と呼ばれる地域で発掘調査を開始しました。

この調査が行われるようになったきっかけは、5年前にアメリカの大学生が現地の人から聞いた石板の話でした。

論文の題材を探すためチアパス州を訪れていた大学生は、地元の住民が60cm×120cmの古代の石板を見つけたという話を聞き、それをゴールデン教授とシェーラー氏に伝えました。

その石板には、他のマヤの石碑で見られるのと同じような記述スタイルで、神話、詩、戦いの記録、生活、歴史などが刻まれていました。

 

発見された石板 Image Credit: Stephen Houston (Brown University)/Charles Golden (Brandeis)

 

メキシコ政府と地元民の発掘への理解を得るために5年が費やされた後、ゴールデン教授たちの国際的な考古学者のチームがラカンハ・ツェルタルに入り、これまでに多くの構造物や遺物が発見されました。

発掘調査は、地元の人たちが日常的に牧場や農場として使っている土地で行われました。

 

Journal of Field Archaeologyに掲載された研究では、ラカンハ・ツェルタルで石碑、宗教施設の跡、ピラミッドの残骸、球技場の跡などが発見されたことが報告されています。

球技場はマヤの遺跡でよくみられるもので、ここではマヤ人たちが、硬いゴムボールを左右の壁から突き出たリングに入れる競技を行っていました。

ピラミッドの残骸は約13メートルの高さで、周囲にはエリートたちの住む住居や宗教儀式を行う場所もありました。

また地元民たちが販売している商品の中には、マヤ時代のものと思われるものが含まれていました。

 

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サク・ツィは周囲の強力な国家とうまく共存していた

 

ラカンハ・ツェルタルの発掘現場の地図 Image credit: Charles Gordon

 

サク・ツィに最初の住民が移り住んだのは西暦前750年頃とされ、都市はその後1,000年以上にわたって統治されてきたと考えられています。

しかし周囲に強大な力を持つ国家が存在していたにもかかわらず、発掘からの証拠は、サク・ツィがそれほど軍略に長けていたわけではないことを示しました。

都市の中心地は小川に囲まれた場所にあり、一方には石を積んだ壁の痕跡がありました。

これは戦争に備えて作られたと推測されますが、石碑には都市の一部が戦争によって燃え上がったと記されていたことから、この壁はおそらく防御の目的を果たせませんでした。

 

それでもサク・ツィは周囲の国とうまく交渉し生き延びました。

プラン・デ・アユトラの調査から、サク・ツィは西暦864年までは存在していたことがわかっています。

ゴールデン教授は、サク・ツィのような中規模の都市がより強力な国家に囲まれながらも長く存続したという事実は、古代マヤの文化や歴史を理解するうえで重要だと指摘しています。

 

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発掘調査はまだ残っており、チームは今年の6月に再びラカンハ・ツェルタルに戻る予定です。

次回の調査では発掘のほかに、崩壊の危険にさらされている遺跡を安定させることや、町で販売されている商品から古代のものをピックアップすることも行われます。

また都市を正確にマッピングし、地上からは見えにくい場所の構造物を発見するために、上空からレーザーを照射する「LIDAR (ライダー)」と呼ばれる手法が使われることになっています。

 

 

 


 

 

しぐれ
しぐれ

サク・ツィには「白い犬」っていう意味があるんだけど、なぜその名前なのかはわかってないみたい

せつな
せつな

重要な石板を地元の人が見つけていたというのが面白い……

 

References: Brandeis University