ストーンヘンジが何のために作られ何のために利用されたのかについては多くの説があります。
現在では祭祀のための施設という説が有力ですが、科学の進歩により将来新しい説が生まれないとは限らないのが考古学の面白いところです。
祭祀説を覆すことになるかどうかは別として、ストーンヘンジの周辺で発見された豚の骨は当時の人々がストーンヘンジをどのように扱っていたのかについてのヒントを提供しています。
調査結果は、豚がイギリス各地からストーンヘンジへ連れてこられたことを示しています。
豚はイギリス全土から生きたままストーンヘンジへ連れてこられた
過去の発掘調査によりストーンヘンジの周囲には豚の頭の骨が多く捨てられていたことがわかっています。
イギリスのカーディフ大学で考古学科学の講師を務める主任研究者Richard Madgwick氏は、見つかった131の豚の頭の骨を調べあるデータを導き出しました。
それは骨に含まれる同位体から判明したもので、豚が何を食べていたのかやどの地域の水を飲んでいたのかがわかるものです。
ストーンヘンジが作られていた地域の周囲には豚を飼育していた痕跡がありませんでした。
このことは豚がどこか別の場所から運ばれてきたことを意味しています。
Madgwick氏が取り出したデータは、豚たちがストーンヘンジから数百マイルも離れた場所からやってきていたことを示しました。
Madgwick氏は骨から見つかる同位体の値が広範囲にわたっていることから、豚たちはイギリス全土の各地から運ばれてきたと結論づけています。
(動物が消費する地元の食べ物や飲み物には独特の同位体が含まれているのでそれを調べることで豚の生産地を特定することができる)
しかし当時は車も飛行機もない時代です。
豚たちはどうやってストーンヘンジへとやってきたのでしょうか。
この謎を解く鍵は“豚の頭部だけが集中的に捨てられていた”という事実です。
これは豚が――食肉のように加工された状態ではなく――生きたまま連れてこられたことを意味しています。
過去の研究結果によると当時ストーンヘンジの周辺に大規模な養豚場はありませんでした。
また肉を腐敗から防ぐために塩を使っていた記録や燻製技術があったという記録もありません。
Madgwick氏は、豚はストーンヘンジへと向かう途中で太らされたのではないかと推測しています。
ストーンヘンジやその周辺で見つかっているストーンサークルは多くの人々を収容するだけの広さがあります。
多くの人が集まればそこに食事の必要性が生まれます。
豚はサークルで行われる儀式に参加する人たちのためのディナーであった可能性があります。
ストーンヘンジがどのような目的で作られたのかは分かりませんが、少なくとも豚の骨の研究からは、そこに多くの人間が集まったことだけは確かです。
そしてわざわざ遠くから生きた豚を――途中で太らせてまで――連れていくということは、ストーンヘンジが当時の人々にとって大きな意味を持っていたことの証と言えるでしょう。
そう考えると“ストーンヘンジが祭祀の目的で作られた”とする一般的な解釈は妥当な落としどころと言えるのかもしれません。
それにしても2000年以上前の豚の骨から住んでいた地域を特定できるというのはすごい技術ですね。
References:LiveScience,ScienceAdvances