解け始めている永久凍土、「スヴァールバル世界種子貯蔵庫」を脅かす温暖化の影響

自然
(Bjoertvedt/CC BY-SA 3.0/Wikimedia Commons)

ノルウェーにある「スヴァールバル世界種子貯蔵庫」は、地球上の植物の種子を集めた種子銀行です。

この施設は、現在進行中の気候変動やそれに伴う自然災害、さらには核戦争などの不測の事態による農作物の絶滅を防ぐため、あらゆる種子を保存し未来に引き継ぐ目的で作られました。

永久凍土に埋められ、常時マイナス18~20度という低温環境にある貯蔵庫には、現在約100万種の種子が冷凍保存されています。

スヴァールバル世界種子貯蔵庫は、人類を存続させ続けるための大きな使命を担っています。

 

ノルウェーの環境庁は2019年、気候変動がスヴァールバル諸島に与えている影響について調査を行っています。

「現代版ノアの箱舟」あるいは「Doomsday Vault(終末のための貯蔵庫)」とも呼ばれるスヴァールバル世界種子貯蔵庫は、温暖化の影響により、人類を救う前にその機能を失ってしまうかもしれません。

 

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温暖化による気温上昇が永久凍土を解かしている

 

ノルウェーの環境庁から委託を受けた、ノルウェー気象学研究所のInger Hanssen-Bauer氏たちの科学者チームは、国内の気温の変化を分析した結果、貯蔵庫のあるスヴァールバル諸島の気温が、ここ50年近くの間に3~5度上昇したと報告しています。

人間の生活圏の最も北に位置しているスヴァールバル諸島の年間平均気温はマイナス8.7度です。

しかし現在、温暖化の影響により周囲の氷河が解け雪崩が発生したり、貯蔵庫の入り口付近に水が流れ込んだりするケースが確認されています。

 

チームは、1971年から2017年までの気象データと、「気候変動に関する政府間パネル」が定めた地球温暖化シナリオとを組み合わせ、2100年までの気温の変化も予測しています。

その結果スヴァールバル諸島では、平均的なシナリオで7度、最悪の場合は10度の温度上昇が起きることがわかりました。

7度から10度の気温の上昇は確実に永久凍土を解かすため、低温を維持しなければならない貯蔵庫は、対策を施さない限り、災害後の人類の復興という目的を果たせなくなる可能性があります。

Hanssen-Bauer氏は、報告書は最悪のシナリオを想定したものであり、気候変動に関する知識や気候モデルの限界などから、将来を正確に予測することは難しいとしながらも、「温室効果ガスの排出削減が、気候変化の影響を減少させることは明らかだ」と話しています。

 

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北極圏の地表は他の地域と比べて2倍の速度で温まっている

 

ロングイェールビーンの町 (Public Domain/Wikimedia Commons)

 

スヴァールバル諸島の最北端にある町、ロングイェールビーンは、気候変動の影響が最もよくあらわれる土地として、世界の科学者や気象学者に注目されています。

ロングイェールビーンでは2015年に起きた雪崩で2人が死亡、9人が負傷しました。

雪崩は気温上昇による永久凍土層の融解が原因であり、科学者は、温暖化が進む限りこうした事故は起こり続けるだろうと指摘しています。

 

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アメリカ海洋大気庁(NOAA)は2018年、スヴァールバル諸島をはじめとした北極圏の温暖化は、予想外の方法で環境システムに大きな変化をもたらしていると警告しました。

NOAAは報告書のなかで、北極圏の地表は、地球の他の場所と比べて2倍の速度で温まっていると指摘しています。

 

 

 


 

 

かなで
かなで

今のところそれぞれの種子を保管している入れ物については問題ないみたいだよ

しぐれ
しぐれ

このまま温暖化が進むと、貯蔵庫を別の場所に移動する必要が出てくるかもね

 

References:TheWashingtonPost

(※2019年4月の記事に加筆修正を加えました)