人間は汗をかくことで体温を調節できる素晴らしい能力を持っています。
この能力は暑い場所での生存を可能にさせ、それにより人類は地球のほぼ全域に広がることができました。
しかし現在進行形の問題である地球温暖化は、将来確実に、人の住めない地域を生み出すと考えられています。
アメリカとイギリスの研究者グループは、世界各地の数千に及ぶ気象データを分析した結果、人の生存できない温度に達する地域が既にいくつも存在していることを確認しています。
近年起きている突発的な高温、高熱の異常気象の数は、1979年から2017年の間に起きた数の2倍にも達しています。
人の住めない高温の地域が増え始めている
Science Advancesに掲載された研究では、人間の生存が不可能になる、「湿球温度35℃」の地域を特定するため、数千の気象データを分析しています。
湿球温度(しっきゅうおんど)は、空気中の湿度を含めた温度のことで、高くなればなるほど、人間の発汗機能が働かなくなります。
湿球温度35℃という環境は、汗をかいても蒸発せず体から熱が逃げないため、人間は生きていくことができません。
現在地球上には、恒常的に湿球温度が35℃に達する地域はありませんが、過去に中東では数日間だけこの温度に達した例があります。
米国コロンビア大学にあるラモント・ドハティ地球観測所のコリン・レイモンド教授らの研究グループは、世界各地の7,877の気象観測所から集めた1時間ごとの気象データを分析し、過去に起きた高温、高熱の異常気象を特定していきました。
その結果、1~2時間という短時間ではあるものの、アジア、アフリカ、オーストラリア、南アメリカ、北米の一部の地域で、湿球温度35℃以上が記録されていたことがわかりました。
特に高温になりやすいのは、南アジア、中東沿岸、北アメリカ南西部の沿岸地域であり、これは高い海洋の温度が海岸線に沿って伝わっていくことが関係していると推測されます。
また最も温度が高かったのは、ペルシャ湾とその近隣地域(サウジアラビア、カタール、アラブ首長国連邦)で、なかには湿球温度35℃以上を14回記録した地点もありました。
2022年のワールドカップ開催国であるカタールの首都ドーハも、一時的にではあるもの、致命的な温度を記録しています。
普段人々が気にしている気温は、空気の温度だけを示す「乾球温度 (かんきゅうおんど)」ですが、これに湿度という要素が加わると、危険性の評価は著しく変動します。
以前の研究では、こうした極端な気象現象は、今世紀の後半に発生すると予測されていました。
しかし分析結果は、温暖化の影響が既に致命的なレベルで進行している可能性を示唆しています。
レイモンド教授は、「この結果は、数十年後に起こると予測されていたことが、今起きていることを示している」と述べ、これらの致命的な異常気象は、地球温暖化と直接相関し、今後ますます増加するだろうと警告しています。
研究者は、エアコンは高温対策になり得るとしながらも、利用できるのはアメリカやカタールなどの裕福な国の一部の人のみであり、使用期間が長引けば経済的な問題も発生すると指摘しています。
今後高温が予測される地域は、現在でも貧しい国が多いため、エアコンを問題解決に用いるのは現実的な選択肢ではありません。
研究著者の一人であるコロンビア大学のラドリー・ホートン氏は、今回の分析結果について、「私たちは思っているよりも、転換点に近い場所にいるかもしれない」と語っています。
高い温度に湿度が加わると体温調節ができなくなるんだね
人類の住める場所が狭くなる日もそう遠くないのかもしれないな
References: The Guardian