アメリカ国立科学財団(NSF)は、プエルトリコで運用しているアレシボ天文台の電波望遠鏡を解体すると発表しています。
解体は立て続けに起きたケーブルの断線を原因としたもので、アンテナの主鏡や副鏡、周囲の施設などを調査した結果、最終的に判断されました。
NSFのディレクターであるセスラマン・パンチャナタン氏は、「NSFは労働者とアレシボ天文台のスタッフの安全を優先しているため、残念ながらこの決定が必要になる」と説明し、今後について、「科学界を支援し、プエルトリコの人々との関係を維持する方法を模索していく」と述べています。
また現在アレシボ天文台を管理している米国セントラルフロリダ大学のアレクサンダー・カートライト学長は、「私たちのチームは望遠鏡を安定させるため、最小限のリスクでNSFと精力的に取り組んできたが、安全こそが最優先事項である」と述べています。
世界最大の電波望遠鏡をおそった自然災害
1960年から1963年にかけて建設されたアレシボ天文台は、直径305メートルのアンテナをもつ世界最大の電波望遠鏡で、宇宙科学の発展に大きく貢献してきました。
アレシボ天文台は最初の太陽系外惑星を発見し、アインシュタインが予言した重力波の存在を裏付ける証拠を提供しました。
また「007 ゴールデンアイ」や「コンタクト」といった映画や、「X-ファイル」などのテレビ番組にも登場しています。
この巨大なアンテナはプエルトリコの文化財とみなされており、毎年多くの学生や観光客が訪れています。
8月のケーブル落下でできた穴 (Credit: University of Central Florida/Arecibo Observatory)
アレシボ天文台はこれまでにも数々の災害に見舞われてきました。
特にハリケーンと地震はやっかいで、施設はその都度物資を調達し、修復を行ってきました。
しかし今年の8月、巨大ハリケーン「イサイアス」の通過によって、副鏡を支えるケーブルの一部が断線し、下の主鏡に激突しました。
主鏡には30メートル幅の穴ができ、望遠鏡の運用はストップされました。
その後専門家チームが原因を調査し修理の計画が立てられましたが、11月初旬になると今度はメインケーブルが外れてしまいました。
望遠鏡の中央部分にある受信機(副鏡)の重量は900トン近くあり、3本の柱から伸びたケーブルで支えられています。
短期間での連続したケーブルの断線は、人の手によるアンテナの修理を難しくし、施設が崩壊する危険性を高めました。
アンテナは今後、他の施設に影響が出ないよう慎重に解体される予定です。
アンテナ撤去後もアレシボ天文台は稼働し、これまでに得たデータの分析などが行われます。
アレシボ天文台がなかったら人類の知る宇宙はもっと狭いままだった……
残されたデータからまた新たな発見があるかもしれないな
Reference: University of Central Florida