1961年から1972年にかけて行われたアメリカのアポロ計画では数多くの月の石が地球に持ち帰られています。
全てを合わせると400㎏近くにもなる月の石は厳重に保管され成分分析が行われています。
非常に貴重とされる月の石ですが、今回スウェーデンとオーストラリアの調査チームが驚きの発見をしています。
アポロ14号が持ち返った月の石の一部を調べた結果、それが過去に地球にあったものだということがわかりました。
月の石は40億年前の地球の石
スウェーデンの国立自然史博物館のJeremy Bellucci氏とオーストラリアのカーティン大学のAlexander Nemchin教授が率いる調査チームは、アポロ14号が月から持ち帰った石を分析しました。
チームは月の石の成分に初期の地球でみられるものが含まれていることを発見します。
石英、長石、ジルコンからなる2グラムほどの石の破片は地球で見つかった同じような破片と似た特徴を持っていました。
いずれも酸化した環境で見られる特徴を備えていて、年代測定によると約40億年前のものと推定されました。
Nemchin教授は、これは通常月で発見される石の成分とは明らかに異なるものだと語ります。
このサンプル中のジルコンの化学的性質は月で見つかった他のあらゆるジルコン粒子のものと異なっています。それは地球上でみられるものに非常に類似しています。
なぜ元々地球にあったものが月で発見されたのでしょうか。
それは過去に起きた隕石の衝突が原因でした。
隕石の衝突が石を月まで運んだ
アポロ14号が月の石を採取した場所で今回のサンプルがあったコーンクレーター近くの写真 Photo credit: NASA
調査チームは、初期の地球で形成された岩が隕石の衝突により舞い上がりそれが月に到達したのではないかと推測しています。
これを可能にするには――月までの距離を考えると――かなりの衝突エネルギーが必要に思えます。
しかし40億年前の月は現在よりも地球の近くに位置していました。
月は毎年約3センチずつ地球から遠ざかっています。
この離れる速度が40億年前から一定だったかどうかはわかりませんが、もしそうだと仮定するならば当時の月は今よりかなり近い場所に位置していたことになります。
月に“着陸”した地球の岩は、外気のない月面で宇宙からやってくる隕石や放射線に耐えながら長い間埋もれたままになっていました。
月の表面には隕石の衝突によって破壊された微細な岩が積もったレゴリスと呼ばれる堆積層が存在しています。
40億年前に月に到着した岩はこのレゴリスに段々埋もれていきました。
しかし2600万年前に月に大きな隕石が衝突し下に埋もれていた古い岩石が露出します。
アポロ14号のクルーたちは直径300m以上もあるコーンクレーターと呼ばれる場所で石を採取しました。
彼らはそのとき偶然にも、隕石の衝突によって露出した古代の地球の石を再び地球に持ち返ることになったのです。
石には宇宙の秘密が隠されている
実際にアポロ14号が持ち帰った月の石を調べる様子(1971年)Photo credit: NASA
USRA(Universities Space Research Association-1969年に設立された、大学や政府を通して宇宙科学技術を発展させるための非営利機関)のDavid Kring氏は、今回の研究結果が初期の地球と生命の誕生期における研究を発展させるとして期待を寄せています。
生物学者は生命の誕生時期を38~41億年前だと考えています。
月の石にちょうどこの時期の岩の破片が付着していたとすれば、そこから新しい発見が生まれる可能性があります。
地球上でも他の星のものと思われる石や破片が見つかることがあります。
それらは過去に隕石の衝突などで噴き上げられた岩が宇宙空間を飛んで地球に到達したものです。
以前南極で見つかった火星の石はその後の調査で、火星がかつて活発な火山活動をしていたことを明らかにしました。
生命誕生以前の地球の石というだけでも貴重ですが、その後を月で過ごした石はもっと貴重なものです。
今回の調査結果が宇宙や地球の新しい秘密を解き明かすきっかけになるのか注目したいところです。
アポロが持ち帰った月の石が、実は地球と月の間を往復していた、というのはとてもドラマチックな発見です。
もしかしたら普段何気なく私たちが目にする石も、宇宙の石、とまではいかなくても様々な過去を持っているのかもしれません。
References:livescience