太陽から2番目に位置する金星はその大きさから地球の双子星と呼ばれ、かつては常夏の楽園だと信じられてきました。
しかし1961年から続けられた旧ソビエトの一連の探査、そして1980年代のNASAのパイオニアミッションで金星の全容が判明して以降、この星は灼熱の地獄として認識されるようになりました。
大気のほとんどが二酸化炭素である金星の気温は平均で500度以上と、とても生命が住むことのできる環境ではありません。
過去には金星の地上からの熱を利用し空中都市をつくろうとする考え方もありましたが、それが可能になるには科学の進歩が必要であり、現時点で金星は人間の移住先の候補から外れています。
しかし最近発表された研究によると、金星はかつては地球と同じような住みやすい環境であった可能性があります。
金星が誕生した45億年前から少なくとも30億年は、金星の気候はとても穏やかでありそこには生命さえ存在していたかもしれません。
金星にはかつて水が存在していた
1974年2月5日にマリナー10号が撮影した金星に紫外線フィルター処理を施したもの。Image Credit:NASA
研究著者であるゴダード宇宙科学研究所のマイケル・ウェイ氏は、金星が形成されてから現在までの間に惑星が遂げた変化について5つの大気循環モデルを使ったシミュレーションで再現しています。
1989年に打ち上げられた金星探査機マゼランによって明らかになった金星の地形や、太陽から受ける熱が45億年の間でどのように金星に影響を与えてきたのかなどのデータを使って行われたシミュレーションは、金星が過去に地球と似たような環境であった可能性を示しました。
金星は生命が生まれるのに適したいわゆる「ハビタブルゾーン」の内側にある(太陽に近すぎる)ことから、科学者たちはそこに生命が誕生するのに必要な水がないものと考えてきました。
しかしマゼランの地形データからは、かつてそこが海だったと思われる海溝の跡が見つかっています。
ウェイ氏は、金星にはある段階で表面に水が存在していたと確信しています。
現在金星に届く太陽放射は地球のほぼ2倍です。しかしモデル化したすべてのシナリオで、金星は液体の水に適した表面温度をまだサポートできることがわかりました。
これは現在の金星の表面が極端に熱いのは、単に太陽に近いからだけではなく、何か別の理由が存在していることを意味しています。
ウェイ氏は、約7億年前に起きたと考えられる金星での大規模な火山活動がその原因だと考えています。
惑星規模の火山噴火が金星を灼熱地獄に変えた
旧ソビエトのベネラ探査機の画像を元に作成された金星の火山のイメージ Image Credit: NASA/JPL
火山を発生させたマグマは大気中に二酸化炭素を放出します。
やがて噴火が収まると、地表に広がったマグマが冷えて固まることで、大気中の二酸化炭素が段々と土壌に吸収されなくなっていきます。
そうなると現在の地球でも起き始めている二酸化炭素による温室効果が起き、金星は急速にその温度を上昇させることになります。
しかし金星全体を覆いつくすほどの二酸化炭素の層を作るには、惑星規模の大噴火が起きる必要があります。
これについてウェイ氏は、2億5,100万年前に現在のシベリア地域で発生した大規模な噴火の例を挙げます。
金星で何かが起こりそこで大量のガスが大気中に放出されましたが、それらは地中に再吸収されませんでした。地球でもシベリア・トラップのような例があります。
シベリア・トラップは、中央シベリア高原を中心に広がる洪水玄武岩のことで、過去に地球で起きた大規模噴火(一説には巨大な隕石の衝突とも)の際にできたと考えられています。
この西ヨーロッパの面積に匹敵するほどの大規模な噴火は、当時の生命体のほとんどを死滅させるほどのインパクトを地球にもたらしました。
ウェイ氏は、金星で起きた大規模な噴火が金星の姿を永遠に変えたと推測しています。
シミュレーション結果は、金星の表面気温が20度~40度の範囲に収まることを示しました。
これはもし大規模な火山活動が起きていなければ、金星は今でも水が豊富に存在する星であった可能性を示唆するものです。
ウェイ氏は、なぜ金星でそうした火山活動が起こったのかや、それが一度だけだったのか、もしくはそれに連動したイベントが発生したのかなどについてさらに知る必要があると述べます。
金星を研究しその歴史と進化のより詳細な理解を得るにはさらなるミッションが必要です。私たちのモデルは金星が居住可能であり、本来の金星が今日見られる金星の姿とは根本的に異なる可能性があることを示しています。
ウェイ氏はこのシミュレーションが太陽系以外の惑星の理解にもつながると考えています。
金星のように恒星から近いゾーンに位置している熱い星も、もしかしたらかつては住みやすい星だった可能性があります。
金星には生命が存在することができる――こうした前提は、これまで居住の可能性について考えられもしなかった惑星について新しい見方を提供することでしょう。
金星や水星などの地球よりも内側にある星は、太陽に近いことから、なかなか探査が進んでいない現状があります。
金星については、60年代から旧ソ連とアメリカが頻繁に探査機を向かわせましたが、そこが人の住める場所などではないことがわかると急速に熱が冷め探査の対象から外れていきました。
今回のシミュレーションは、たとえ関心が失われた星であっても新たな発見や事実がまだまだ存在していることを示唆しています。
References:CNN