アメリカや中国といった国家規模のプロジェクトだけでなく、宇宙への野望を隠さない大富豪たちの民間企業も、近い将来地球を飛び出し、月や火星へ生身の人間を送ろうと本気で考えています。
しかしこれまでに地球以外の星に到達できた人間は、月へ着陸したアポロ計画の宇宙飛行士だけであり、火星に至っては――その月とは比べ物にならない距離から――人間を送るのは現実的ではないとする考え方が一般的です。
また問題なのは距離だけではありません。
宇宙空間は地球とは全く異なる環境であり、それが人体へ及ぼす影響は計り知れないものがあります。
アポロの宇宙飛行士たちは地球に帰還した後長期間隔離され、身体的な問題がないかを厳しくチェックされました。
またISS(国際宇宙ステーション)での任務を終えた宇宙飛行士も、長期間無重力空間にいたことで身体に何らかの変化が起きることがわかっています。
こうしたことから、将来人間を宇宙空間に向かわせるには、地球にいたときと変わらない健康状態を維持するための方法を見つけ出すことが最重要課題となります。
新しく発表された宇宙と人間の健康に関するレポートは、宇宙空間が人体に悪影響を及ぼした実例を紹介しています。
人間が宇宙空間で地球と同じように過ごせるようになるには、どうやらまだまだ時間がかかりそうです。
長期間無重力空間にいると脳内の血管に血栓ができる
アメリカの医学雑誌JAMA Network Openに掲載された研究は、人間が長期間宇宙空間で過ごした場合、深刻な血管の問題が生じる可能性があることを明らかにしています。
ISSに滞在していた宇宙飛行士11人を対象に行われた検査では、そのうちの6人が「内頸静脈(ないけいじょうみゃく)」と呼ばれる、脳から首へかけて通る太い血管に何らかの異常をきたしていたことがわかりました。
症状を起こした宇宙飛行士の内頸静脈内の血液は停滞したり逆流したりし、また1人の飛行士に至っては、血栓症もしくは静脈の閉塞を発症していました。
血栓症は宇宙飛行士の健康被害の例としては初めての記録になります。
もし生身の人間が宇宙船に乗って火星に向かう場合、軌道や積載量との関係にもよりますが、最短でも6~9カ月くらいかかります。
また火星での任務を終えて地球に戻るまでの期間を含めると、3年近くの間宇宙空間や火星の低重力で過ごさなければなりません。
ISSでの平均的な滞在期間が半年であることを考えると、今のうちから血栓症をはじめとした宇宙空間で起こり得る健康被害について対策を考えておく必要があります。
研究著者は、記録上初めて見られた内頸静脈の血栓に関して、「無重力環境への曝露は、地球上での直立姿勢と比較して慢性的な頭部への血液および組織液の移動を引き起こす」として、それは未知の結果につながると警告しています。
宇宙空間が人間の体に及ぼす影響
Credits: NASA
地球の重力は、血液を身体の各部位に供給するのに役立っています。
しかしISSや宇宙空間では重力がないため、血流に大きな問題が生じます。
長時間の無重力状態は、頭部の血液や体液の状態を変化させ、顔が腫れたり、一回の心臓の鼓動で循環する血液の量が減少したりといった症状をもたらします。
既に宇宙空間が人間の体に悪影響を及ぼすことは知られています。
筋肉が衰えてうまく立てなくなったり、骨密度や腸内細菌の構造が変化することで脳の圧迫につながる可能性も指摘されています。
今回新たに報告された脳内の血栓については、さらなる調査と研究が必要です。
研究著者は内頸静脈に異常が見つかった今回の調査結果について「民間宇宙飛行だけでなく、将来の火星へのミッションなど、宇宙空間での人間の健康に重大な影響を及ぼす可能性を示した発見である」と結論づけています。
最近になり様々な国が、月に再び人類を立たせようとする計画を打ち出し始めています。
NASAやESA(欧州宇宙機関)などは月に永続的な基地を建設し、それを足掛かりとして火星などのもっと遠くの星の探査の中継地点にしようと計画しています。
しかし宇宙空間が人体に及ぼす影響を考えると、人間が月や火星で健康的に活動する日がやってくるのは、もう少し先のことになるでしょう。
頑丈な宇宙服と酸素があっても重力はどうにもできない……
人間は地球の環境に合わせて作られているからな。他の星や宇宙空間とは相性が悪いということなのかもしれないな
References:JAMA Network Open