宇宙で死ぬと遺体はどのように扱われる? 月と火星での違い

宇宙
(NASA)

人類が宇宙に飛び出してから半世紀以上がたちました。

現在、NASAやESAなどの宇宙機関は、次の目標、すなわち月と火星への継続的な滞在に向けて技術開発を進めています。

 

人間が地球を離れるという行為には、非常に大きな障害があります。

有人宇宙飛行が始まって以降、20人近くが飛行中の事故により命を落としています。

この数字は全体から見れば驚くほど少ない割合ですが、今後どれだけ技術が発達しても、事故自体がゼロになることはおそらくないでしょう。

民間人が宇宙に行くことも現実的になりつつあるなか、不慮の事故が起きた際に亡くなった人の遺体がどうなるのか、という問題についてはあまり関心が持たれていません。

もし家族や友人が宇宙旅行に行き、不幸にもその途中で命を落としたとしたら、私たちは地球の場合と同じようにその人を送ってあげられるのでしょうか?

あるいは自分が月や火星で死んでしまったとしたら、その体はどのように処理または埋葬されるのでしょうか?

 

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宇宙ステーションや月の遺体は速やかに地球に戻る

 

テキサス州ベイラー医科大学の宇宙医学の教授であるエマニュエル・ウルキエタ氏は、宇宙飛行士の健康を保つ新しい方法の発見に取り組んでいます。

ウルキエタ氏によると、現在宇宙での死は次のように扱われます。

 

地球低軌道ミッション(国際宇宙ステーションなど)で誰かが死亡した場合、遺体は収納袋に入れられ、数時間以内に地球に戻されます。

これは月でも同様で、基本的に遺体は収納袋に保存され、数日後には地球に戻ります。

NASAはすでにこうした事態を想定したプロトコルを定めていて、月までの距離にある遺体については、今後も安全かつ速やかに扱われることになります。

とはいえこれらのプロセスは、宇宙船や宇宙ステーションなどの加圧された密閉空間で亡くなった人に適用されるものです。

もし宇宙服を着ずに宇宙空間に出た場合、人間は呼吸ができなくなり、圧力の差から血液や体液が沸騰しほぼ即死します。

このケースで死亡した遺体をどうするのかについては、現状不明です。

 

火星の遺体を地球に戻すのは簡単ではない

 

火星は遠すぎるため遺体の管理が問題になる (NASA/JPL-Caltech)

 

宇宙ステーションや月での遺体が、迅速に地球に戻ることはわかりました。

では火星の場合はどうでしょう?

 

火星は月よりもはるかに遠く、乗組員は片道でも最低6か月は宇宙船で暮らさなければなりません。

もし火星に向かう途中で誰かが亡くなった場合、遺体をすぐに地球に運ぶことはできず、収納袋で保管しながら火星への到着を待つことになります。

しかし火星に着いてからも、問題は解決しません。

火星と地球の位置関係から、地球に戻るには、出発から数えて往復3年近くの月日がかかります。

その間他の宇宙飛行士は、遺体をできるだけそのままの状態で保管し続ける必要があります。

 

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遺体を埋葬するのはどうでしょうか?

まず火葬は良いアイデアではありません。

なぜなら火葬には多くの資源が必要であり、生き残った乗組員のリスクの増大につながるからです。

また埋葬も、遺体に存在する細菌や微生物が火星の土壌に影響を与える可能性があるため推奨されません。

現状、火星で亡くなった人の遺体は、次の地球行きが決まるまで、厳重に保管されることになるでしょう。

 

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宇宙での死とその遺体については定まった考え方がなく、宇宙旅行の良い面だけが伝えられるのに対し、いまだ重要な問題としてとらえられていない側面があります。

宇宙での死は本人の家族や友人だけでなく、宇宙船の乗組員の精神や心理面にも影響を与えます。

ウルキエタ氏は、「乗組員の喪失に対処し、悲しみに暮れる家族を助けることは、亡くなった人の遺骨を扱うのと同じように重要です」と述べ、今後、人類が月や火星やその他の惑星に向かうのであれば、宇宙での死という厳しいシナリオについて計画を立てておく必要がある、と指摘しています。

 


 

 

ふうか
ふうか

宇宙旅行がもっと当たり前になれば、こうした問題も取り上げられるようになるだろう

せつな
せつな

宇宙で死んでも家族のいる地球に戻りたいと思うのが人間……

 

Reference: The Conversation