2019年の暮れから翌年の2月にかけて、冬の大三角の一つであるベテルギウスの明るさが低下しました。
ベテルギウスは10万年以内に寿命を迎えると考えられているため、減光は超新星爆発の前兆ではないかと大きな注目を集めました。
しかしその後の観測で徐々に明るくなっていることが確認され、4月までには以前の状態に完全に戻りました。
科学者は減光の理由について黒点や塵などを挙げていますが、これまでに明確な結論には至っていません。
ハーバード・スミソニアン天体物理学センターの研究者チームは、ハッブル宇宙望遠鏡の観測データを元に、ベテルギウスの減光の原因について新たな見解を発表しています。
ベテルギウスは、自身が放出したプラズマによる塵によって明るさが低下しました。
ベテルギウスの減光は塵の雲によるもの
ハーバード・スミソニアン天体物理学センターのアンドレア・デュプリー氏率いる研究チームは、2019年の1月から、ハッブル宇宙望遠鏡を使ってベテルギウスを定期的に観測してきました。
ハッブルはベテルギウスが発する波長を可視光線以外も含めて記録しています。
研究者は紫外線の波長の時系列データを分析し、高密度に加熱されたプラズマの移動が星の南半球で起きていたことを発見しました。
巨大なプラズマの塊は減光が始まる少し前の2019年9~11月に現れ、時速32万キロ以上の速さで宇宙に向かって移動しました。
このプラズマの塊は当初ベテルギウス本体の2~4倍の明るさを保っていましたが、1カ月もすると徐々に暗くなっていきました。
地球からベテルギウスを観測していた人が明るさの低下に気づいたのはちょうどこの頃です。
研究者はベテルギウスの減光について、外に放出された高温のプラズマが急速に冷えることで塵の雲が作られ、それが星を覆い隠した結果だと推測しています。
デュプリー氏は、「塵の雲が形成される前に、プラズマが星の表面を通って外に移動した」と説明し、「ハッブルが検出したこの結果は、プラズマによって減光が起きたことの証拠である」と述べています。
プラズマの発生後に塵の雲が作られ明るさが低下した (Credit: NASA,ESA,and E.Wheatley (STScI))
ハッブルがベテルギウスの南半球で観測した高温のプラズマの塊は、星の表面から数百万キロ地点にまで到達しました。
ベテルギウスや太陽のような恒星は常に自身の質量を宇宙に放出していますが、それらは通常、冷えて星を遮るほど大量かつ遠くに届くことはありません。
ベテルギウスがどのようにして大量のプラズマを遠くに運んだのかはよくわかっていません。
これについてデュプリー氏は、ベテルギウスで起きている規則的な脈動が関係しているかもしれないと指摘しています。
ベテルギウスは約420日周期で、膨張と収縮、明暗を繰り返す特徴があり、またその表面は、温度の異なる層がぐるぐると上下に循環する「対流セル」の状態になっています。
このポンプのような動きは、大量のプラズマが発生した時期にも滞りなく行われていました。
ドイツのポツダム天体物理研究所が管理するSTELLAと呼ばれる望遠鏡は、ベテルギウスの南半球でプラズマが発生した際に、対流セルの上への動きを確認しています。
ベテルギウスを暗くしたプラズマは、星の脈動によって加速し、より遠くに飛んで行った可能性があります。
デュプリー氏は、今回のプラズマの流出量は通常の2倍であり、またベテルギウスは太陽の3000万倍の速度で質量を失っていると説明しています。
研究チームは引き続きハッブル宇宙望遠鏡と、NASAの太陽観測機「STEREO」を利用してベテルギウスを観測していく予定です。
ひとまず爆発の危険はなくなったってことかな?
誰も爆発寸前の状態を知らないからな。今後の観測で新たな発見があるかもしれない
References: NASA