アポロが月に着陸して半世紀、忘れられていたかのような月に対する関心がこのところにわかに高まってきています。
先日も中国が月の裏側に探査機の着陸を成功させました。
そんな月着陸レースに今度はイスラエルが名乗りを上げています。
彼らの探査機は他の3か国のように政府主導のものではなく民間のプロジェクトで作られたものです。
もし月面に着陸することができれば民間では初の偉業となります。
創世記という名の月面探査機
Artist’s concept of Beresheet on the lunar surface CC BY-SA 4.0 ,Wikimedia Commons
イスラエルにある民間非営利団体SpaceILは、2019年の2月18日に民間では初めてとなる月面探査機を打ち上げると発表しました。
ヘブライ語でBeresheet(Genesis-創世記)と名付けられた探査機は、SpaceX社のFalcon9ロケットによって打ち上げられる予定となっています。
Beresheetは直径1.8m、高さが1.2mほどの大きさで、重量は燃料を含むと約600キロになります。
月の磁場を測定する機器とNASAから提供されたレーザー反射器、そしてイスラエル人の文化的歴史的遺物を集めたタイムカプセルを持っていく予定です。
SpaceILは科学技術教育を推進する目的で2011年に設立された団体で、その予算は主に慈善家とイスラエル宇宙機関(ISA)によって提供されています。
Beresheetは当初Googleが行ったLunar X Prizeに参加する目的で制作されました。
Lunar X Prizeは2007年から始まった民間による月面着陸を競うコンテストで、優勝チームには2000万ドルが提供されることになっていました。
しかし多くの参加者がエントリーしたものの結局終了日までに打ち上げることができずコンテストは終了してしまいました。
Beresheetのモデルとなった探査機 A model of the Beresheet spacecraft, initially called Sparrow, was presented at the 66th IAC in October 2015 אמא של גולן,Wikimedia Commons CC BY-SA 4.0
その後SpaceILはアメリカの慈善家Sheldon Adelson氏やイスラエルの宇宙機関にかけあいプロジェクトを続けるための資金を確保することに成功します。
SpaceILには多くの教育機関が参加していて200人以上いるメンバーのうちの95%がボランティアです。
(プロジェクトには2017年までに25万人以上のイスラエル人がボランティアとして協力しました)
Beresheetの制作とこれまでにかかった運営費用は合わせて9500万ドルにのぼります。
Beresheetは月面で長期運用するように設計されていません。
にもかかわらず多額の資金を費やして民間で月面着陸を成し遂げようとするのは、そこに将来へ向けた投資の意味合いがあるからです。
契約業者であるIsrael Aerospace Industriesは、将来着陸船を建造する商業的可能性を検討していると述べています。
Beresheetはかつてのアポロ宇宙船のように一直線で月に向かうことはしません。
代わりに少ない燃料で静止軌道にとどまり、そこからゆっくりと月の重力を使って到達する計画です。
地球の重力から逃れるためには膨大なエネルギーが必要になります。
計算では静止軌道上に到達するまでに燃料の90%を使うことになるため、残り10%の燃料を少しずつ使いながら2.5か月かけて月に到達する予定です。
こうしたことから月面での活動は約2日間だけになるだろうということです。
月面でのたった2日間のためだけに多くの資金と労力を使い探査機を送るというのはなかなかできることではありません。
しかし今後の民間での宇宙開発の先駆けとして貴重なデータをもたらしてくれることは間違いありません。
SF映画のように気軽に外の星に行けるのはまだ先の話になりそうですが、Beresheetの勇気ある一歩に拍手を贈りたいと思います。
Source:TheConversation