NASAは12月10日、1977年に打ち上げられた無人探査機「ボイジャー2号」が、太陽風の届く範囲である太陽圏を脱出したと発表しました。
地球からおよそ110億マイル(約176億キロ)離れた地点を進むボイジャー2号の太陽圏の脱出は、パイオニア10号と11号、そしてボイジャー1号に引き続いて4機目となる偉業です。
ボイジャー2号は打ち上げから41年が経過してもなお、地球と交信を続けています。
ボイジャー計画とグランドツアー
グランドツアーが175年周期の大チャンスであることを伝えるポスター Image Credit: NASA/JPL-Caltech
1977年にNASAは2機の無人探査機「ボイジャー1号」と「ボイジャー2号」を打ち上げました。
ほぼ同じ構造の2機は、木星より外側の惑星を探査するために設計されました。
地球よりも外側に位置する惑星を連続で探査するには、星の配置が理想的である必要があります。
ボイジャーは惑星の重力を使うスイングバイという航法で、方向転換したり推進力を得たりします。
そのため木星よりもさらに遠くに到達するには、土星、天王星、そして海王星の位置がボイジャーの進行方向に位置している必要がありました。
惑星は太陽から離れるほど周回に時間がかかります。
太陽を周回するのにかかる年数は木星が約12年、土星が約29年、天王星が約84年、そして海王星が約164年です。
ボイジャーが打ち上げられた1977年は、これらの星が理想的な場所に位置していました。
この時期を逃した場合、次の機会がやってくるのは175年後です。
科学者たちはこの絶好の機会を最大限に生かすべく「ボイジャー計画」をスタートさせ、ボイジャーの木星以遠の星をめぐる旅を「グランドツアー」と名付けました。
ボイジャー1号は1977年の9月5日、ボイジャー2号は8月20日にそれぞれ打ち上げられました。(1号の打ち上げが2号よりも遅いのはシステム不良が発見されたためです)
ボイジャー1号は、木星と土星およびその衛星であるタイタンを観測し調査を終えた後、2012年8月に太陽圏を脱出しました。
一方1号とは別のルートをとったボイジャー2号は、当初の目的の一つである木星を調査した後は、土星、天王星、海王星と木星よりも外側の惑星の全てに到達し、晴れてグランドツアーを成し遂げました。
現時点で、天王星と海王星に到達できた探査機はボイジャー2号のみです。
ボイジャーに搭載されたゴールデンレコード
2機のボイジャーに搭載されたゴールデンレコード Image Credit: NASA/JPL-Caltech
2機のボイジャーには、「ゴールデンレコード」と名付けられた金属板が搭載されています。
このレコードには地球という星の特徴を表した画像や音声などが含まれており、知的生命体がボイジャーを発見した場合、地球が宇宙のどこにあるのかがわかるようになっています。
ボイジャーは調査を終えた後、太陽圏を脱出することが既に想定されていました。
そのため人類の長年の疑問である、「地球以外に知的生命体は存在するのか?」という問いに対し、ボイジャーが一つの答えを提供できるのではないか、という考えが生まれます。
ボイジャーが地球に戻ることは二度とないが、宇宙のどこかで知的生命体が探査機を発見することがあるかもしれない――ボイジャー計画に携わっていた米国コーネル大学のカール・セーガンを中心としたチームは、探査機に地球のことを知らせる金属板を取りつけるアイデアを思いつきました。
地球の存在を知らせることに警戒感を示す科学者もいたものの、最終的にセーガンはゴールデンレコードのアイデアを上層部に承認させることに成功します。
同様の金属板はパイオニア10号と11号にも取りつけられていましたが、ボイジャーに搭載されたゴールデンレコードはそれらよりもさらに情報量を増やし、より地球という星が理解されるような工夫が施されました。
ゴールデンレコードには次のようなものが記録されました。
またゴールデンレコードには、当時のアメリカ大統領ジミー・カーターと国連事務総長クルト・ヴァルトハイムのメッセージ文も添えられました。
音楽には「ベートーベンの交響曲第5番」やチャック・ベリーの「ジョニー・B・グッド」、日本からも「鶴の巣籠り」という尺八の古典など、様々な国やジャンルのものが選ばれました。
あいさつや言語にはもちろん日本語も含まれています。
ゴールデンレコードは金メッキが施された銅製で、レコードカバーの表面はウラン238で覆われています。
ウラン238の半減期は44億年以上であり、崩壊速度を調べることができれば作られた時期を特定することができます。
ボイジャー1号が別の恒星の近くを通り過ぎるのは約4万年後、ボイジャー2号に至っては約29万6千年後になります。
もしそこに知的生命体がいるならば、ゴールデンレコードは地球からのメッセージとなります。
ヘリオポーズを越えてなお続くボイジャー2号の航海
楕円形の境界線がヘリオポーズ、太陽風が届かなくなる地点 Image Credit: NASA/JPL-Caltech
太陽のエネルギーはとてつもなく強く、最も遠い海王星を優に超えたその先にまで及びます。
ボイジャーのこれまでの計測結果から、宇宙から飛んでくる有害な放射線である宇宙線の量は、太陽から離れるほど大きくなることがわかっています。
太陽は太陽風によって内側にある惑星を守ってくれています。
今回ボイジャー2号が到達した地点は、ヘリオポーズと呼ばれる太陽の影響が及ばない場所です。
この先の宇宙空間がどのようになっているのかは、科学者たちでさえ想像することしかできません。
ボイジャーに搭載されている原子力電池は毎年4ワットずつ電力が落ちています。
NASAはできるだけ長く交信できるように、必要のなくなった機器の電源を落とすことで、ボイジャーの寿命を延ばす努力をしています。
現在ボイジャー2号のデータが地球に届くのに必要な時間は16.5時間です。
ボイジャー2号は2025年頃まで稼働できる見込みです。
当初5年間だけだった計画を大幅に延長し、今でも遠く離れた場所から地球と交信を続けるボイジャー2号。
地球という星のメッセンジャーである探査機の航海は、これからも続きます。
ボイジャー2号の軌跡。日本語字幕にもできます NASA Jet Propulsion Laboratory,YouTube
次に大きな星の近くを通るのが29万6千年後……そのとき地球はどうなっているんだろう……
知的生命体がやってきたときには誰もいなかった、なんてことのないようにしたいものだな