NASAのニューホライズンズのチームは、2019年の元旦に探査機が接近した太陽系外縁天体「アロコス」の最新の分析結果を発表しています。
2006年に地球を飛び立ったニューホライズンズは、冥王星の調査を終えた後、海王星よりも遠い地点にある小惑星の海、エッジワース・カイパーベルトに向かいました。
地球からの観測によってニューホライズンズの次の探査対象に選ばれた「アロコス」は、2つの天体が重なりあった雪だるまのような形をした星で、昨年の11月に改名される前は「ウルティマ・トゥーレ」の名で呼ばれていました。
アロコスを含むカイパーベルトに存在する無数の天体は、太陽系誕生時からその姿をほとんど変えていないとされているため、アロコスについて知ることは、地球や太陽系の惑星、そして太陽系全体の成り立ちについてのより深い理解につながります。
アロコスのデータは、惑星や太陽系がどのようにして形成されたのかを明らかにする
Image Credit: The Johns Hopkins University Applied Physics Laboratory LLC.
アメリカ科学振興協会で報告されたアロコスの分析結果は、この天体に関するいくつかの新しい事実を明らかにしています。
アロコスがどのように作られたのかについては、その雪だるまのような外見をニューホライズンズがとらえて以降、科学者の間で意見が分かれていました。
地球から64億キロ以上離れた位置から届けられたニューホライズンズからのデータは、アロコスの形状、地質、色および組成に関する疑問に答え、また太陽系の形成初期から存在する「微惑星」の起源についての理解を深めるものです。
ニューホライズンズの主任研究員であるアラン・スターン(Alan Stern)氏は、「アロコスは宇宙船が探査できた最も遠い天体であり、最も原始的な物体である」と述べ、この星に関する詳細なデータが、微惑星と惑星の形成の理解に大きな進歩をもたらすと強調しました。
アロコスは激しい衝突ではなくゆっくりとした結合によって生まれた
ニューホライズンズのチームはアロコスの高解像度のデータを使って、天体がどのように形成されたのかをコンピューターでシミュレートしました。
その結果アロコスは、小さな石や岩が激しくぶつかり合ってより大きな物体になる「階層的降着」によってできたのではなく、密度の高い粒子が互いに引き寄せられ、ゆっくりと時間をかけて生まれた天体であることがわかりました。
アロコスの表面には大きな衝突の跡が見られず、また星の上部と下部の接合部分にもお互いが激しくぶつかったことを示す痕跡がありません。
スターン氏は「アロコスの全てが穏やかな融合を示している」と述べ、この天体が太陽系形成の初期に、お互いの近くを周回しながらゆっくりと結合して作られた星であると説明しています。
シミュレーションを行ったワシントン大学の研究者で、論文の執筆者の一人であるウィリアム・マッキノン(William McKinnon)氏は、「地球上の種がどのように進化したのかを化石が教えてくれるように、微惑星は宇宙の星がどのように形成されたのかを教えてくれる」と話しました。
クレーターが少ないアロコスの表面
Imege Credit: NASA/Johns Hopkins University
アロコスの分析に関わった、米国サウスウエスト研究所の天文学者ジョン・スペンサー(John Spencer)氏は、アロコスの表面にはわすがな数のクレーターしかなく、それが約40億年前にできたものである可能性が高いことを突き止めています。
またアロコスには大気やガス、リング(輪)、塵の放出がなく、半径8,000キロ以内に180メートルを超える衛星が存在していないこともわかりました。
これらの結果からスペンサー氏は、「アロコスはゆっくりとした進化しか経験してきていない」と結論づけています。
アロコスの表面の「赤色」の秘密
アロコスの表面の「赤色」の理由についても、研究者は一つの結論を導き出しています。
アリゾナ州にあるローウェル天文台の天文学者ウィル・グランディ(Will Grundy)氏たちの研究チームは、アロコスの表面が凍結しており、それがメタノールと複雑な有機分子によって覆われていることを発見し、この状態が赤色を生み出している要因であるとしています。
グランディ氏は、アロコスの表面に満遍なく広がる赤色は、この星がゆっくりと集まってできたことを示す証拠であると付け加えています。
マッキノン氏は研究成果について、「アロコスから得られた事実は、ニューホライズンズの冥王星での成果よりも重要だとみなされるようになるかもしれない」と感想を述べています。
そして「アロコスは単なる宇宙ジャガイモではなく、太陽系についての深い真実を教えてくれる驚くべき存在である」と語り、今後の研究によるさらなる新しい事実の発見に期待を寄せました。
ニューホライズンズは現在、地球から71億キロ離れた地点を時速50,400㎞で飛んでおり、カイパーベルト内の放射線と塵の状況を観測しデータを収集しています。
ミッションチームは今年の夏に地上の大型の望遠鏡を使ってカイパーベルトを探索し、ニューホライズンズの次の目的地を選定する予定です。
ニューホライズンズの原子力電池は2030年代までは稼働するんだって
次の星はどんな形をしてるのかなー
今年の夏の観測でフライバイ可能な星が見つかることに期待だな
References: NASA,ScienceAlert